北アルプス 槍ヶ岳(3,180m)・笠ヶ岳(2,898m) ((5)のつづき)
穂先が間近に見える場所まで登ってきました。まず稜線の向こうから頂上だけが顔をのぞかせ、やがて正面に全容を現します。ここは槍ヶ岳が最も大きく見える場所です。
遠くからでも大きな富士山や御嶽山と違い、槍ヶ岳は間近に迫らないと大きく見えません。
ずっと見たかった景色がこれでした。世界中のありとあらゆる情熱が、すべてあの一点に集まる感じがします。
「~ 播隆は文政六(一八二三)年に信者と共に笠ヶ岳(二八九八メートル)に登り、その折遥かに高く天を突くが如く聳立する槍ヶ岳を眺望し強く心を打たれたという。この時の感動が槍ヶ岳登山大願の起りだったとされている。 ~」
「~ 初登頂に成功したのは文政十一(一八二八)年だった。この後三回も登っているというから驚きである。最大限の敬意をもってしても尚足りないほどの偉業である。 ~」
(『諸国名峰恋慕 三十九座の愛しき山々』手塚宗求(山と渓谷社))
登路の途中、槍ヶ岳を開山した播隆上人が、登るたびに利用したという「播隆窟」があります。
「播隆行者は五回槍ヶ岳登山をしたが、天保五年(1834)の第四回登山の時は、この岩屋で五十三日間も篭り、念仏を唱えた。」という説明書きがついています。
「岩屋」といっても、あまりしっかりしたものではなく、何とか雨風がしのげる程度に見えます。「五十三日」もの間篭ったというのは、その長さだけでも驚きます。
今こうして槍ヶ岳に登れることと、およそ200年も前の想像を絶する厳しい修行とは、無関係ではないと思いました。
途中の殺生ヒュッテで昼食に牛丼をいただきました。まだ宿泊客の姿はなく食堂にいたのは自分だけでした。
傾斜はどんどん急になり、槍ヶ岳山荘がなかなか近づきません。
(登頂:2013年9月上旬) (つづく)