年が明け、昭和四十五年一月の寒い朝、ストーブ当番になった夢は、みんなより
少し早く学校に来ました。教室に入り、ランドセルを置いた夢はすぐに、ブリキ製の
コークス入れ(カゴ)とコークスをとるための小さなスコップ(十能)を持って、
校舎裏のコークス置き場に行きました。コークス置き場は、ブロックで囲いがして
あり、その中に黒光りするコークスが山と積まれています。夢はコークスを入れる
カゴを脇に置くと、山の中からスコップで、少しずつコークスを取り、コークス入れに
入れていきました。そして、コークス入れがいっぱいになると、それを持って教室へ
もどって行きました。もどる途中、校舎がチカッと光り六小の声がしました。
「夢ちゃん、おはよう。今日は寒いね。コークス運ぶの重いでしょ。大丈夫?」
その声はいつもと違い、めずらしく静かな話し方でした。
「別に大丈夫だけど、どうしたの?今日は静かだね、いつもと違って。なんか
気味悪いよ。」
「何が?いつもと変わらないじゃない。」
「うそー。いつもはもっと大きな声で、ワーッて感じで話しかけてくるじゃない。」
「別に。同じでしょ。」
「ふ~ん。ならいいけど。」
六小は、それっきり黙ってしまいました。夢は、六小のことが気になりながらも、
教室へもどると、ストーブの横にコークス入れを置いて、ストーブの火の様子を見て
いました。焚き口から覗くと、黒いコークスが赤くなり、小さなとぐろを巻いて燃えて
います。コークスの燃えたあとの灰は、ストーブの下にたまるようになっています。
灰は、あとで当番が、校舎裏の灰捨て場に捨てに行きました。コークスを燃すことに
よって出る煙は、ストーブより教室の天井に沿って窓に伸びているブリキ製の
煙突から、外に出ていくようになっていました。