風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第二部) 其の弐拾四

2010-03-17 23:47:50 | 大人の童話

年が明け、昭和四十五年一月の寒い朝、ストーブ当番になった夢は、みんなより

少し早く学校に来ました。教室に入り、ランドセルを置いた夢はすぐに、ブリキ製の

コークス入れ(カゴ)とコークスをとるための小さなスコップ(十能)を持って、

校舎裏のコークス置き場に行きました。コークス置き場は、ブロックで囲いがして

あり、その中に黒光りするコークスが山と積まれています。夢はコークスを入れる

カゴを脇に置くと、山の中からスコップで、少しずつコークスを取り、コークス入れに

入れていきました。そして、コークス入れがいっぱいになると、それを持って教室へ

もどって行きました。もどる途中、校舎がチカッと光り六小の声がしました。

「夢ちゃん、おはよう。今日は寒いね。コークス運ぶの重いでしょ。大丈夫?」

その声はいつもと違い、めずらしく静かな話し方でした。

「別に大丈夫だけど、どうしたの?今日は静かだね、いつもと違って。なんか

気味悪いよ。」

「何が?いつもと変わらないじゃない。」

「うそー。いつもはもっと大きな声で、ワーッて感じで話しかけてくるじゃない。」

「別に。同じでしょ。」

「ふ~ん。ならいいけど。」

六小は、それっきり黙ってしまいました。夢は、六小のことが気になりながらも、

教室へもどると、ストーブの横にコークス入れを置いて、ストーブの火の様子を見て

いました。焚き口から覗くと、黒いコークスが赤くなり、小さなとぐろを巻いて燃えて

います。コークスの燃えたあとの灰は、ストーブの下にたまるようになっています。

灰は、あとで当番が、校舎裏の灰捨て場に捨てに行きました。コークスを燃すことに

よって出る煙は、ストーブより教室の天井に沿って窓に伸びているブリキ製の

煙突から、外に出ていくようになっていました。