四月、夢が六小と出会って四度めの春が巡ってきました。夢も、早六年生になり、
この一年は特別なものになろうとしています。そんなある日の朝、夢は学校に
着いてしばらくの間、じっと校舎屋上の時計台を見つめていました。四年前、六小が
できてから、ずっと休みなく時を刻み続けている時計台、二年の二学期、初めて
歩いた道からよく見えた、大きなひろい青空に向かって伸びている時計台、学校が
建つ丘の坂下から見てもすぐわかる時計台、朝、学校に来ると、いつもまっ先に
見上げていた時計台。あの日から屋上の時計台は、夢にとって大切な、なくては
ならないものとなったのです。
『この時計台とも、あと一年でお別れだなぁ。』
夢がそんなことを思っていると、また、あのにぎやかな声が聞こえてきました。
「なに、感慨にふけってるのー。」
六小は、満面の笑みをうかべて、辺り全体に光をふりまいています。
「あーあ、また騒々しくなるなぁ。せっかく、一人しみじみといい気分だったのに。」
夢は、「ふーっ」とため息をついて呟き、六小にむかって大きな声で言いました。
「何しに来たの?せっかく、一人でもの思いにふけっていたのに。」
「そんなの、夢ちゃんらしくなーい。」
六小は、相変わらずの調子です。
「何よそれ、わたしらしくないって。あのね、わたしはこの時計台が大好きなの。
だから、もうすぐ別れなくちゃならなくて淋しいな、ってしみじみしてたのよ。
じゃましないでよね。」
「ふーん、わたしと別れるの、淋しいと思ってくれるんだ。」
「あのね、だから六小さんじゃなく、この時計・・・・。」
「あら、時計台だってわたしの一部よ。ってことはわたしでしょ。」
六小はそう言うと、にっと笑いました。
「はぁーっ。」
夢は、六小の言葉にあきれてしまいました。が、六小の言うことにも一理あるので、
言い返すことができません。結局、
「ふ、わかったわよ。六小さんの言うとおりよ。」
と、降参するはめになりました。
「うふふ、やったぁ。」
六小は、気分よさそうに言いました。そして、
「さて、と、気分いいうちにもどろうっと。夢ちゃん、またねー。」
と、せわしなくもどっていきました。一人残された夢は、『何だったの、今のは。』と
思いながらも、
『もうすぐ、この騒々しさ・せわしなさともお別れだな。』
と、少し淋しくなるのでした。