昭和四十六年三月、いよいよ六小を卒業する時が来ました。卒業式の日の朝、
夢は六小に言いました。
「今日でお別れだね。後輩のこと、よろしくね。六小さんのことは、絶対忘れないから
安心して。だってあなたは、わたしの友だち、母校・心の故郷だもの。四小さんと
ともに・・・・だけど。」
六小は、静かにうなずき答えました。
「うん、わかってる。わたしも、夢ちゃんのこと忘れない。ずっと覚えている。中学へ
行っても元気でね。」
「うん。」
夢も六小も、いつもとはちがい、しんみりとしています。やがて、式の始まる時間と
なりました。体育館が無いため、式は、一階の音楽室で行われます。先生方・
来賓の方々・保護者、そして、在校生代表の五年生が見守るなか、式は粛々と
進んでいきます。式の行われている間、六小は、じっと夢のことを見つめて
いました。その間、六小の胸の内では、五年前、夢と始めて出会った時
とてもうれしかったこと、夢がはんとう棒を上れないのをからかったこと、いじめにあう
夢を必死に慰め励ましたこと、また、反対に夢が自分を励ましてくれたこと等々、
夢と出会ってからこの五年間の様々なことが、浮かんでは消え浮かんでは消え
していました。式を見ながら六小は、この時を、夢が卒業証書をもらう今この時を
忘れないでいよう、いや、夢とともに過ごしたこの五年間を生涯忘れないでいよう、と
堅く心に誓うのでした。