風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第二部) 其の参拾四

2010-03-25 23:13:48 | 大人の童話

昭和四十六年三月、いよいよ六小を卒業する時が来ました。卒業式の日の朝、

夢は六小に言いました。

「今日でお別れだね。後輩のこと、よろしくね。六小さんのことは、絶対忘れないから

安心して。だってあなたは、わたしの友だち、母校・心の故郷だもの。四小さんと

ともに・・・・だけど。」

六小は、静かにうなずき答えました。

「うん、わかってる。わたしも、夢ちゃんのこと忘れない。ずっと覚えている。中学へ

行っても元気でね。」

「うん。」

夢も六小も、いつもとはちがい、しんみりとしています。やがて、式の始まる時間と

なりました。体育館が無いため、式は、一階の音楽室で行われます。先生方・

来賓の方々・保護者、そして、在校生代表の五年生が見守るなか、式は粛々と

進んでいきます。式の行われている間、六小は、じっと夢のことを見つめて

いました。その間、六小の胸の内では、五年前、夢と始めて出会った時

とてもうれしかったこと、夢がはんとう棒を上れないのをからかったこと、いじめにあう

夢を必死に慰め励ましたこと、また、反対に夢が自分を励ましてくれたこと等々、

夢と出会ってからこの五年間の様々なことが、浮かんでは消え浮かんでは消え

していました。式を見ながら六小は、この時を、夢が卒業証書をもらう今この時を

忘れないでいよう、いや、夢とともに過ごしたこの五年間を生涯忘れないでいよう、と

堅く心に誓うのでした。


第六小学校の呟き

2010-03-25 13:30:36 | 校舎(精霊)の独り言

はぁ~、今日は卒業式かぁー。六年生のみんな、大きくなったなぁ。

わたしが始めて卒業式を見てから、もう四十三年になるんだなぁ。早いなぁ。

今までに卒業してった子たちは、みんな元気にしてるかな。そういえば、夢ちゃんは

確か、第四回の卒業生だったよね。あん時の卒業生は何人だったっけ。う~んと、

あ、思い出した。確か、九十八人だった、うん。あの頃は、子どもたちも多かったな。

それが今では、三十何人なんだよね、大体。ずいぶん少なくなっちゃった。四小の

姉さんは卒業生九人だって。四小の姉さんも八小の妹みたいに、何年か後には

閉校になっちゃうのかなぁ。そしたらわたし・・・・・淋しいなぁ。クスン・・・・・

 


風の向こうに(第二部) 其の参拾参

2010-03-25 00:02:43 | 大人の童話

「あのね、今、六小さんの言ったとおりなの。わたし、六小さんのこと大好きだし、

思い出もあるの。でも・・・・・ごめんね。わたしには、あの四小さんとの思い出が

強すぎて・・・・・」

六小は黙っていました。

「ねえ、あの、六小さん聞いてる?わたし、あなたと始めて会ったあの日、あなたと

お話できてすごくうれしかった。ああ、六小さんともお話できるんだって。でも、ごめん。

文集には、この五年間のことは書けそうもない。」

「エッ・・・・エッエッ・・・・・」

途切れ途切れに、嗚咽が聞こえます。

「六小さん泣いてるの?ごめんね。あなたとの思い出は文集には書けないけれど、

わたしの心には、たくさん残ってあるの。だから・・・・・」

「ウワ~ン・・・・・」

六小は、とうとう大きな声で泣き出してしまいました。そして、しばらく泣いたあと、

「わかった・・・・ヒック・・・・じゃあ・・・・ヒック・・・・これから、わたしとニラメッコして。

ヒック・・・・夢ちゃんが勝ったら、もう何も言わない。」

と、突然言い出しました。

「え、あの、ちょっと。」

「いくよ。ニラメッコしましょ、アップップ!」

夢は、何がなんだかわからないまま、六小につられてニラメッコしました。しばらくの

間、静寂が続きます。と、急に

「ウ・・フフフ・・・・アハハハ・・・・・」

六小が笑い出しました。

「あーあ、笑っちゃった。わたしの負け。夢ちゃん、困らせてごめんね。あー、

ニラメッコしたらすっきりした。じゃあ、わたしはこれで、またね。」

周囲を大きく包んでいた光が消えはじめます。

「あ、ちょ、ちょっと待ってよ。またねって、文集のことは。」

「いいよ、もう。夢ちゃんの気持ちわかったから。とりあえず、卒業までよろしくー。」

声のするなか、光はスーッと消えていきました。六小がもどったあと、夢の心には、

いつもとはちがう、何か切なさのようなものがわいてきました。六小は、文集に

四小とのことを書くのを許してくれたけど、本当は淋しいんじゃないか、と。夢は

心のなかで、もう一度『ごめんなさい。』と言いました。すると、それに答えるかの

ように、校舎がチカッと一回、小さく光りました。