あめふり猫のつん読書日記

本と、猫と、ときどき料理。日々の楽しみ、のほほん日記

紳士の偏食。

2011-05-18 18:20:08 | 本(エッセイ・ノンフィクション他)

寝ても覚めても本の虫 (新潮文庫) 寝ても覚めても本の虫 (新潮文庫)
価格:¥ 580(税込)
発売日:2007-02-01
俳優の児玉清氏が亡くなられたというニュースは、少しショックなものでした。

クイズショー『アタック25』の司会としてもなじみ深い方ですし、『白い巨塔』や、最近では『龍馬伝』などのドラマも印象的ですが、私はなによりも氏の海外ミステリなどの書評のファンだったので。

そうして、私が氏に強い印象を持ったのは、EQ(エラリー・クイーンズ・ミステリマガジン日本版)に載ったエッセイにおける一言でした。

もう二十年も前に読んだものなので記憶が曖昧で間違いがあるかもしれませんが、こんな一文だったと思います。

《私は、クリスティーとクイーンの作品を、ひとつも読んだことがない》

え?と思いました。私もそうだったのですが、だいたい海外ミステリファンというものは、ドイル、クリスティー、クイーンから入り、三種の神器のごとく外せないものだと思っていたのです。

もちろん、いずれ別のジャンルや作家に興味が移ったりもするのですが、でも、クリスティーの『そしてだれもいなくなった』とか『アクロイド殺人事件』とか、クイーンの『エジプト十字架の秘密』とか『Yの悲劇』などを一冊も読まないなんて!と衝撃でした。

もっとも児玉氏の愛する作家は、フランシスとかグリシャムとかデミルとかクランシーとかであったので、骨太タイプの海外ミステリが好きなのかなぁ、という印象でした。

失礼ながら、少し趣味が偏っているのかも、と小娘の私は生意気にも思ったものです。

けれど、そのエッセイに反発したかと言うとそうではなく、逆に、“なんだかカッコイイ!”と思いました。多数派はこうかもしれないけど俺はこうだ的な文章が新鮮で、たしか当時ロス・トーマスとかも推してらしたような気がするのですが、思わず買ってしまいました。思うツボです(笑)。

もっとも、私は当時、ミステリ専門誌ではEQよりハヤカワ・ミステリマガジン派だったので、氏のエッセイはたまにしか読めなくて残念でした。

でも、EQが廃刊(休刊?)してからはハヤカワの方にも書かれるようになり、嬉しかったのを覚えています。

今になって思えば、氏は日本作家の作品も幅広く読んでいらっしゃって、偏食、と思ったのは私の誤解かとも思うのですが、そのキャッチーな一言と、自分の大好きな海外ミステリを、《こんなに面白い!》と強く推していたエネルギーは、本当に印象深いものでした。

知的で、紳士で、ダンディな方なのに、そんなときは自分の大好きなもののことを話す少年みたい。

もっと、おススメ作品を知りたかったです。

ご冥福を、心からお祈り申し上げます。

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4 コメント

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またまたご無沙汰しておりました[E:coldsweats01] (エラティト・シン)
2011-05-23 09:03:59
またまたご無沙汰しておりました[E:coldsweats01]
児玉清さん…私には、70年代から80年代のTVにおけるホームドラマでの、“普通の人”の演技が忘れ難いです…[E:weep]
この数年で、読書家である事がクローズアップされたという印象がありますが…それにしても、凄い読書量だったのですね[E:coldsweats02]

と思ってたら、長門裕之さんの訃報…今朝のワイドショーをちらっと見た限りでは、奥様の南田洋子さんとのおしどり夫婦ぶり、認知症を患われた南田さんへの介護の様子しか取り上げられてなくて、いささか不満です。子役時代から数えると、70年のキャリアのある俳優さんで、日本の映画史、TVドラマ史に多大な貢献をされた方なのに…[E:bearing]
亡くなる直前までクイズ番組の司会をされていた児玉さんの扱いの方が、まだ大きい、ってのは…[E:coldsweats02]

また、この間に、新聞にごく小さくある方の訃報が載りました。
日向明子さん…私も実は顔を知らない[E:coldsweats01]んですが、かつて日活ロマンポルノなどに主演された方です。
仕事のジャンルによって、芸能マスコミの評価がこれほど違うものか[E:coldsweats02]と…

確か、小山内薫さんでしたっけ、「俳優は人間の宝石がなるものだ」と言ったのは…失われた宝石に、心より哀悼の意を表します…[E:weep]
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長門さんも児玉さんと同年代だったのですね。 (雨ふり猫@管理人)
2011-05-23 21:58:40
長門さんも児玉さんと同年代だったのですね。
訃報続きで少し切なくなりました。
私は正直長門さんの作品はそれほど観ていなくて、最近は2時間サスペンスの悪役とかのイメージしかなく、正直児玉さんへの思い入れの方が大きかったのですが……。
でも、たしかに、70年の足跡は大きいものですね。
「俳優は人間の宝石」美しい言葉ですね。
失われて取り戻せないことは、やはり切ないですね[E:despair]
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あはは[E:coldsweats01] (エラティト・シン)
2011-05-23 23:15:12
あはは[E:coldsweats01]
ちょっとキツい表現になっちゃいましたね[E:coldsweats01]

私がショックを受けたのは…

長門さんは子役の頃、沢村アキオ名義で、「無法松の一生」という映画に出演されました。(昭和18年製作…[E:coldsweats02])
長門さんの母親役で共演されたのが、園井恵子さん。この方は、戦時中の慰問部隊『櫻隊』に参加され、昭和20年8月6日に広島で被爆され、一ヶ月位で原爆症で亡くなられています…
長門さんはこの方の事を、戦後50年以上経っても覚えていて、雑誌のインタビューに答えておられました。
何と言うか、忘れてはならない大切な事を語るべき語り部がいなくなってしまった、そういうショックが、もやもやと私の中にあるのかも…

はっ[E:sweat01]
って事は、長門さんの訃報自体とは違う次元でショックを受けているのか…[E:sign02]

は、反省、反省[E:sign03][E:sweat01]
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よく言われることですが、ひとりの人の命が失われ... (雨ふり猫@管理人)
2011-05-24 22:59:58
よく言われることですが、ひとりの人の命が失われると、そのひとの心の中にある亡き人の記憶も、失われてしまうのですね。
ことに、シンさんが言われるように語り継ぐべきものを持っている人が逝ってしまうのは、とても悲しく、喪失感を伴うものなのですね。
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