あ・うん (文春文庫) 価格:¥ 460(税込) 発売日:2003-08 |
脚本は、故・向田邦子氏。
もの悲しいストーリーを追いながら、ふと、以前見た雑誌の向田邦子特集で、彼女の自宅の玄関に、“僧は敲く(たたく)月下の門”と書かれた額が飾られていたのを思い出した。
(わざわざ書くまでもないとは思うが、一応書き添えると、“推敲”という言葉の元になった故事の一節)
あれほどのセリフと文章を書く、ほんとうに目を見張るほど、というか、舌を巻くくらいというか、真実巧いひとなのに、推敲をこんなに大切にしているなんて、と、頭が下がったものだ。
彼女の脚本は、ときに人間の中に潜むおそろしさを鮮やかに浮かび上がらせる。台詞の中の刃に切りつけられるように思うほどだ。今回のドラマにも、それはあった。(たとえば、結末近くの、ヒロインの従姉の独白の中に)
実は、上にあげた一見しみじみとした友情物語の中にも、それはあるように思う。
もっとも、この『あ・うん』ドラマの方を観た少女の頃は、それには気づかなかったけれど。
そういえば、今回の『駅路』には佐藤春夫の詩が効果的に使われていたけれど、『あ・うん』ではヴェルレーヌの詩が印象的だった。
あと音楽。『駅路』ではたびたび、バックに『真珠採り』の“耳に残るは君の歌声”が流れていた。切ないメロディーを、悲恋にそわせようと思ったのは誰なのだろう。
今夜は、その旋律が頭から離れないまま眠ることになりそうだ。
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