Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

2017年06月29日 | 中世料理書-耳

5. 耳

 

料理の名前が変わることは、滅多に無いですが、皆無ではありません。一番可能性の高いのは、政変による改名です。レシピから見て取れるように、中世に書かれた料理書は、料理人が利用するためのものではありません。( レシピの中に、材料の重量、容量、調理時間など、料理をするために必要な記載がほとんどありません。)王様の蔵書の一つとして、王様の本棚に飾るためのものです。言葉を換えれば、料理書に書かれたレシピは王様の権威を盛り立てる内容でなくてはなりません。( 手に入れ難いスパイス、見たこともない食材、豊富な料理の種類等 )敵対する国の料理を載せることはありません。そうと分かれば、答えは見えたも同じです。

 

       

 

   1372年3月23日、シャルルⅤ世の侍従Jean de Vaudetarが彩色画入りの聖書を献呈している図。

           The Hague, Museum of the Book Ms 10 B23 F2rから 

 

ふたつの料理書が世に出た年代とそのバックグラウンドを比較してみましょう。

出版時期にはほんの少しずれがあります。

オリエットは1393年。ロリーパスティは1380年(第一版目)にすでに世に出ています。1393年は第二版目と同じ年代ですが、メナジェ氏はそれよりも早くロリーパスティを手にしていたはずです。1390年と仮に決めておきましょう。

 

ル・ヴィアンディエの著者、Guillaume Tirel  ( ギョーム・ティレル ) 通称Taillevent  ( タイユヴァン ) は、1312?年にノルマンディ半島のPoint-Audemer  ( ポン オードゥメール ) に生まれ、14歳でジャンヌ・デヴルー( Queen Jeanne d'Evreuz of France;1310-1371/3/4、カペー朝最後のフランス王シャルルⅣ世の3度目の王妃。)の元で料理の下働きを始めます。以降、フィリップⅥ世、ジャンⅡ世、シャルルⅤ世、シャルルⅥ世の料理人となって仕えます。シャルルⅤ世に仕えた時間が一番長く、料理書を書くように勧めたのも、それを謹呈したのもシャルルⅤ世でした。

タイユヴァンが料理書を完成させた1383年は、彼の人生を飾る最後の花であったろうと思われます。

 

つづく。

 


2017年06月29日 | 中世料理書-耳

4. 耳

 

http://cuisine.journaldesfemmes.com/recette/327965-merveilles-ou-oreillettes から

 

耳のお菓子はラングドック語を話すルエルグ(Rouergate)地方のもので、カーニバルやクリスマスの期間に作られるものです。

      

               不思議な耳( Merveilles ou oreillettes )  

材料(10人分)

中力粉               500g

レモンの皮(おろす)        1個分

塩                 1 ts

卵                 4個

グラニュー糖            50g

オリーブオイル又はバター      50g

オレンジフラワーウオーター     1 TBS
粉糖                500g 
ピーナッツオイル           2 L

 

方法;

1. 材料を混ぜてよく練る。ドウが指につかないようにオイル又は粉を入れて調整する。丸く丸める。ふきんを被せて2時間置く。

2. のばしてルーレットで5 x 10 cmの大きさに切る。

3. 粉糖を入れ物に入れる。ピーナッツオイルを170℃に熱する。

4. フライする。

5. 取り出したらすぐに丸めて粉糖の中に入れる。ペーパータオルの上に並べる。 

 

不思議な名前のお菓子ですね。どこが“ 不思議 ”なのでしょう。それは次の絵を見れば合点します。

      

       https://www.meilleurduchef.com/en/recipe/oreillette-carnival-fritters.html から

オリエットカーニバルフリッター( Oreillette Carnival Fritters ) です。耳の形をしています。

Merveillesという訳は間違っているのでは?とお思いかもしれません。「素敵な」あるいは「美味しそうな」の方が適訳なのではと指摘されるかもしれません。

しかし、フリッターを初めて作った料理人はやはり「信じられない」というのが正直な感想だったのではと思います。何故なら、製粉の不十分な小麦粉を使って、これほど口当たりの良いお菓子を作ったことは「神業に近い」出来事だったからです。小麦粉を使った、例えば、スープのような料理を作るには、いったん小麦粉をパンにして、それを挽いて使ったのですから。 このお菓子には、イスラム文化の影響を受けた、当時の最先端技術が導入されています。

オリエットは地方によって形が異なるようです。菱形のもの、四角で真ん中に切れ目が入ったものなどがあります。

 

それでは、loure がorillettesに変わった理由は何でしょうか。次回はいよいよ本題に迫ります。