”The English Huswife Gervase Markham 著 1615. ” ではローズウォーターをマジパン、ソース、タルトのフィリングに、ゼリー、スパイスケーキ、オレンジマーマレードを作る際に使用。特にマジパン、ペア、リンゴ、プラム、チェリー、バーベリーで作るジェノア※にはダマスクローズで作ったローズウォーターを使うと述べています。
※ジェノア(Genoa)
ジェノアの型 https://www.historicfood.com/Quinces%20Recipe.htm
この木型は、上のサイトの説明によるとマジパンやジンジャーブレッドの成形だけでなく、1600年頃に流行ったマルメロ菓子であるクィダニー(quiddany)※1, コトニアック(cotoniack)※2, ジェノア(Genoa)※3のペーストに装飾模様をつけるためにも利用されていたようです。少し横道にそれますが、クィダニー、コトニアック、ジェノアについて触れておきます。
※1クィダニー(quiddany)
マルメロで作るキディニア( Quidinia)
Sir Hugh Platt Delights for Ladies (London: 1600) から
28. マルメロを8個用意して種を取り1クォートの水に入れて、1パイントになるまで煮ます。そこに1/4パイントのローズウォーター1/4パイント、砂糖1ポンドを入れ濃い色になるまで煮ます。一滴取って皿の底に垂らし、それが固まったら水盤に入れたゼリーバッグの中に流し入れます。水盤を火にかけて熱します。スプーンで箱の中に必要量を入れて冷まします。冷めたらカバーをします。型の模様を付けるには、箱の大きさに合った型を用意してそれをローズウォーターで濡らして流し込みます。冷めたら型を取って箱の中に入れます。型を水で濡らすと、ゼリーが剥がれます。
※2コトニアック(cotoniack)
※ cotoniack https://stapico.ru/photos/2239950040894085755/info/B8V5rHGHRp7
次の説明は上のサイトからの引用です。
『Quince marmalade(カリンで作ったマーマレード)はポルトガル語のマルメラーダ(marmelada のことで、marmela とは quince の意 ) です。ロシア語の marmalade がもとになっています。カタロニア語では codonyat、カスティリアーノでは embrillo です。古英語ではジェノアペースト、ジェノアマスティック( 厚めのマルメロピューレを平たくプレート状に伸ばしたもの )の名があります。16世紀にジェノバからイギリスに入ったと思われます。英語名の quiddanyまたは cotoniack( 透明のマーマレードそのもの )は、明らかにイタリアの cotognata そのものです。イタリアのシチリアでは、このマーマレードは少なくとも14世紀から知られています。
そして、マルメロのお菓子が東洋の初期に登場したという事実に疑いの余地はありません。イタリアのマルメロマーマレードまたはクロアチアの cotnyata は小さいがアレルギーの心配のない果物から作られた理想的なデザートでした。
コトニアータ(Cotoniata)はクロアチアの伝統的なデザートです。クロアチアではカリンに砂糖とレモン(ジュースと皮)を加え、ダンジャ(dunja)と呼んでいます。既製の cotyonata は数か月間は容易に保管できますが、クロアチアの主婦は月桂樹の葉を入れてガラス瓶に保管しています。』
それではジェノアはどのように作るのでしょう。Delights for Ladies から。
※3ジェノア(Genoa)
- マルメロのジェノアの作り方
マルメロを用意して皮を剥き、スライスする。土器のポットの中に入れてオーブンで焼く。1ポンド取り出して濾し、砂糖を1/2ポンド入れてモルタルの中で潰す。ペースト状になったら型で押し3-4回パンを焼いた後に入れて、(低温で)乾燥させる。すっかり乾燥して固くなったら箱の中に入れておく。一年間は保存がきく。
イタリア、シチリアのアンティーク Sicilian Antique Forms for Cotognata
https://theheirloomchronicles.blogspot.com/2014/04/quince-paste-antique-forms-for-cotognata.html
マルメロのソースに砂糖を適量入れて濃いペースト状になるまで煮詰めます。
スペインでは membrillo といいました。ギリシャ、ローマ、アラブには昔からあったものです。ポルトガルでは marmelada ( マルメロのペースト、マルメロのジャム、マルメロのチーズ ) と呼ばれ、14世紀になると、マーマレードを特別の型に流し入れて近隣諸国に輸出していました。17世紀のイングランドでは、現在のビターオレンジを使ったマーマレードの先駆けともいえるマルメロのペーストを使った quiddany や cotoniack がありました。イングランドで使われていた ”Cotoniack” はカタロニア由来、“Genoa” はジェノバ由来の名前であることが理解いただけたと思います。”quiddany” は勿論 quince からきています。
マルメロに含まれる大量のペクチンを利用して砂糖で煮固めたお菓子は、アラブ文化の賜です。今日、似たものにペクチンを使ったパートドフリュイ( Pâte de fruits )があります。
ペクチン【ポリサッカライド ( デンプン ) の一種で1825年フランスのHenri Braconnot( アンリ・ブラコノー、1780/5/29 – 1855/1/15 )が初めて抽出したものです。】はメチオキシール ( methoxyl : -OCH3 )の数によって二つに分類されます。沢山のメチオキシールがついたペクチン (High-methoxyl pectin ) は低いpH のもとで沢山の砂糖 ( 約55 % ) を溶かした状態でゲル化します。これを利用して果物のジュースを固めたものがパートドフリュイです。
絵右上から左回りにレモン、ブルーベリー、オレンジのパートドフリュイです。表面にはアラレ糖をまぶしておきました。