荷風が留学したカラマズー・カレッジ(ミシガン州)~現在の画像
「摘録 断腸亭日乗(上)」には 「西遊日誌抄」が併禄されている
下巻に移る前に 寄り道して「西遊日誌抄」を覗いてみたい
これは既述した「あめりか物語」「ふらんす物語」の日誌形式版である
内容的には同じ話なので 摘録式に超要約記述する
1903/M36 荷風24歳
10/24 舎路(シアトル)港に着く
1904/M37 25歳
01/05 雅致に富む古文を読みたくなり「平家物語」など読む
09/29 新聞に日露戦争開始の知らせ 旅順港外の露艦沈没の記事
10/08 聖路易(セントルイス)市万国博を見るためタコマを去る
10/10 列車は落機(ロッキー)山の懸崖を上っている
10/30 博覧会会場の喧騒に飽き 郊外で夕陽に映える樫の紅葉を見る
11/16 人に勧められミシガン州カラマズの学校に入ることに決める
11/22 カラマズに着く(学校はカラマズー・カレッジ)
12/16 氷点以下の寒気を始めて体験する 寒国の景色もまた素晴らしい
カラマズー駅1909年頃
荷風が1904~5年頃に下宿したと思われる建物
1905/M38 26歳
01/02 旅順口陥落の知らせがある
05/12 この地の素封家某氏の舞踏会に招かれ 夜更けて帰る
06/30 紐育(ニューヨーク)に着く
07/08 米国には更に詩情を感じず 仏蘭西に行きたいと思う
07/17 華盛頓(ワシントン)日本公使館で小使募集 友人に斡旋を依頼
07/19 公使館で寝起き 仕事は部屋の掃除・郵便物整理・電話取次等々
08/29 父からパリ行きは許さないと手紙 紐育で身を隠そうと考える
09/13 酒場で話しかけられた女に誘われ その家に泊まる
09/23 先夜馴染んだ女を訪ね 淫楽の限りを尽くして一身の破滅を願う
10/16 日露講和も終わり公使館事務も暇 来月からお払い箱となる
酒場に行く 彼女(イデス)が友達らといて 二人で夜の街を歩く
紐育へ発つ迄毎日来て・・・とイデス 荷風・・・死んでも悔いは無い
・・・もっと簡潔にゆく筈が 荷風の思い入れに感染したようだ
あるいは「日乗」の形式の魅力か 「あめりか物語」を読むよりも面白い
そういえば「あめりか…」には華盛頓も公使館もイデスも出て来なかった・・・
11/01 華盛頓も今日限り イデスの家で別離の杯を酌む
11/02 紐育東区(イーストエンド)の日本人宿に泊まる
米国人の家庭に住み込み どうしても渡欧の旅費を得たい
11/11 勤め口見つからず 止む無くミシガンの学校に戻る
11/24 華盛頓から父の手紙が転送される
~正金銀行紐育支店の見習い社員に雇って貰うよう依頼
これを読み次第 先方と連絡を取って頼め~
米国に3年居ても銀行の事務など未経験
人に迷惑かけるだけ と思い荷風は逡巡するばかり
11/30 紐育支店の配人から「来談乞う」の電報 両3日中に伺うと返信
・・・とはいうものの荷風の腰は重たい
12/04 紐育に到着する
12/05 夜マンハッタン座に行き「モンナ・アンナ」を見る
12/06 メトロポリタン歌劇場にて「ヘンゼルとグレーテル」を聴く
・・・以下 2日間の日誌は原文のまま
12/07 余は遂に正金銀行に入りたり。余にしてもしこの度父の望める銀行に入らずば永久父と相和するの機会あらざるべしと素川子(友人)の忠告によりてさすがに我儘もいひ兼ねたるなり。美の夢より外には何物をも見ざりし多感の一青年は忽ち世界商業の中心点なるウォールストリイトの銀行員となる何らの滑稽ぞや。
12/08 余の生命は文学なり。家庭の事情やむをえずして銀行に雇はるるといへども余は能ふかぎりの時間をその研究にゆだねざるをべからず。余は信ず他日かの「夢の女」を書きたる当時の如き幸福なる日の再来すべきを。余は絶望すべきにあらずと自ら諫めかつ励ましたり。然も余は一時文芸に遠ざからざるべからざる事を思ふ時は何らか罪悪を犯したるが如くまた深き堕落の淵に沈みたるが如き心地して心中全く一点の光明なし。銀行の帰途酒場の卓子に独り痛飲して夜半に至る。
・・・やはり 原文どおり書くのも草臥れる 今日はここまで
それでは明日またお会いしましょう
[Rosey]