マクミラは、リハーサル会場で兄弟妹の雰囲気を感じていた。3ヶ月前に降臨して以来、兄アストロラーベとスカルラーベ、双子の妹ミスティラは、対照的な時間の過ごし方をしていた。
アストロラーベは、冥界の軍師だけあって、ひたすら人間界の知識をどん欲に吸収していた。マクミラが長い時をかけて収集した哲学書、歴史書に加えて、文学作品や理系の書物まで一睡もせず読みあさっていた。
スカルラーベは、冥界時代は身体が骨作りだったため、生まれて初めて持った「肉体」を鍛えることが面白くて仕方がなかった。「人間たち」と交流させることは不安だったため、ジェフがニューヴェルヴァーグ・タワーの中のアスレチック・ジムでトレーニングをさせるように手配したが杞憂だった。
脳みそが筋肉でできているようなボディビルダーたちとは、メンタリーが近いのか会話らしい会話なしでもコミュニケーションが取れたし、いつのまにか親友同然になっていた。実は、シェイプアップ目的の美女たちに色目を使われていたのだが、トレーニングに熱が入りすぎていて気がつかなかった。
ミスティラは、マクミラと同じに父“ドラクール”の血筋のせいで昼は表に出られなかったために、マクミラの予備の棺桶を借りて睡眠を取った。動物好きの彼女は、ナイト・ミュージアムに忍び込んだりして冥界時代とは打って変わったお茶目振りを発揮した。
精神は肉体の影響を受けると言うけれど・・・・・・特別な能力を持たない人間の中にいた方がミスティラにとっては幸せかも、とマクミラは思った。
ずっとダニエルと魔女対策のシミュレーションに明け暮れていたマクミラに、アストロラーベとの問答は一時の息抜きとなった。
ジェフの提案で、冥界から来た三人の名前を考えた時だった。ミスティラは、かわいくひっくり返してティラミスとすれば、なんとか通じるだろうということになった。ただし、アストロラーベはともかく、スカルラーベとは不気味すぎるために、留学生ということにしてはどうかとジェフが提案した。それならとんちんかんな行動を取っても、外国人ということで納得してもらえる。
「じゃあ、わたしがよい名を考えるわ」マクミラが、クスクス笑って言う。「カイン・ラーベとアベル・ラーベなんてどう?」
「よさそうな名ではないか」何も知らないスカルラーベが同意する。
「悪い冗談ですぞ、マクミラ様」ジェフがたしなめる。「そうですな。アメリカ人がなじみのない国がよいでしょう。リトアニアからの留学生、ヴォリネン・ザイキスとヨキネン・ザイキスなどはどうでしょう?」
「その名、気に入ったぞ」アストロラーベが答える。「礼を言う」
「お褒めの言葉をいただき、ありがたき幸せでございます。リトアニアでしたら、ちょっとした伝手(つて)がございまして、偽造ではなく正式なパスポートがご用意できます」
マクミラが答えた。「ちょっとした伝手ね。ヌーヴェルヴァーグ財団の富をもってすれば、たいがいのことは不可能じゃないのか」
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