「おたわむれを。すでに人外の存在になってしまった私たちに神の摂理など何の関わり合いがございましょう。“ドラクール”様も私を欲しているはず」
「たしかにお前は魅力的だ。こうしていても時にたえきれなくなる」
それを聞いたエリザードの豊かな胸が一瞬、高なった。
“ドラクール”は一瞥もくれず続けた。「お前を生き地獄に引きずり込んだのは我が罪。せめてヴァンパイアの時くらい共に過ごそうと決めたが・・・・・・」
「が、どうされました?」
「こうした瞬間も終わりが近づきつつある。エリザード、いやラドウよ、ワラキア公国親衛隊といったい何を企んでいる?」
「フフフ、お耳に入りましたか?」
「不死身の眷属たちと、いったい何を考えている?」
「我が使命を果たすことを」
「使命だと!?」
「私こそ世界を統一する『大いなる作業』を完遂できる唯一無二の存在。それならば、世界征服ことが我が使命。そのためにどうか我が愛を受入れ、子を為し帝王として育てあげましょうぞ」
「我らが子を為すだけでは十分ではあるまい。領地内のジプシーすべてをヴァンパイア化することを考えているであろう?」
エリザベートは、ギクリとしたが平静を装う。「数百数千、いや数万のジプシーを我が僕(しもべ)とすれば、彼らの魔術を手に入れられます。さすれば、数年の内に世界を我が一族の手に入れてみましょう」
「いかん!」
「はっ?」
「いかん、と言ったのだ。我がドラゴンに変化してまで守ろうとしたのはワラキアの民。『犯さず犯されず』の範囲内ならば、どのような残酷な闘いや処刑にも目をつぶろう。小国が身を守ろうとすれば、圧倒的な恐怖により外敵をよせつけないことも必要。しかし、禁断の書アポロノミカンによって得た力で世界統一を目指すなど、許されることではない」
「許されないとは、いったい誰に許しを請うおつもりです? しょせん我らは神ならぬ身。望むところを求めるのが、人の生きる道では?」
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