「人の道とは、善と悪、男と女、神性と人間性、心と身体、光と闇、そうした矛盾をかかえながら苦しみながらも助けあって生きること。できるものなら、支配する者と支配される者などなくせればよい。けっしてなくせぬものなら、せめて我がワラキアの民たちに外敵からほんろうされる恐怖だけは取り除いてやりたかった」
「ヨーロッパ全土に畏れられた暴君“ドラクール”様のお言葉とも思えませぬ」
「そう聞こえるか? お前は、自分が変わってしまったことがわかっておらぬ。昔のお前は保身のためなら、自らの美しさを利用することさえ辞さなかったが、それはふがいない兄のせい。それでも、けっして他人を平気で地獄に落とすような人間ではなかった」
「ふがいないなどとは・・・・・・私たちは、まだ子供だったではありませんか?」
「子供か大人か、愚者か賢者か、聖人か悪人かなどは問題ではないのだ。我が望んだのは、与えられた運命の中で精一杯役割を演じること。ワラキア国公子に生まれついたのも、トルコ軍の人質になったのも、アポロノミカンによって我らがヴァンパイアとなったのもすべて与えられた運命。部下を率いて外敵と闘った日々は楽しかったが、もはや我らを脅かそうという相手はいなくなった。世界統一などと言い出した訳は、我らがずっと一緒にいられることを望んでいるだけであろう?」
「そこまでわかっていて、なぜ? 哀れみなど私は欲しくありませぬ。欲しいのは愛だけ」
愛? “ドラクール”には、愛の意味がわからなかった。
愛とは、相手を慕う気持ちか? それなら、見返りなど不要ではないか。
それとも愛とは、相手を独占したい気持ちか? だが、相手が独占されることを望まない時も愛を望むのは、矛盾ではないか。
もしや愛とは、あるいは相手を幸せにしてやることか? もしも、そうなら・・・・・・ルール破りもルールの内か?
「胸元を開くがよい」
エリザードがネグリジェを開くと、豊かな二つの隆起が現れた。
期待に上下するふくらみに、“ドラクール”のたくましい右手が重なった。
次の瞬間、“ドラクール”がするどい爪が伸びた人差し指を突き立てた。
ヒッ。
うめき声とも快感ともつかない声がもれた。
あと1センチ入れば心の臓に達しようとした時、するどい爪が伸びた左手が“ドラクール”の手首をつかんだ。
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