神獣同士にだけ通じるメッセージで、シンガパウムが何かをジュニペロスに伝えた。三番目の首の右目を傷つけられてぐったりしていた魔犬ジュニベロスがすっくと起き上がった。
向かってくる氷柱を砕き続けていたシンガパウムが、自分が乗っていた竜巻に沈み込んだ。同時に、向かってきた数本の氷柱が竜巻の中に吸い込まれた。
スキをつかれたメギリヌに、巨大な竜巻から、手に氷柱を持ったシンガパウムが飛び出した。グサリと二本の氷柱がメギリヌの羽の中央に突き刺さった。そのままメギリヌの裏に回ると、羽交い締めにして動きを封じる。
その時、ジュニベロスは、冥界でメギリヌに右目をつぶされた父ケルベロスがしたように、足下に落ちていた右目をガリガリと食べた。
アオーーン!
一泣きすると、ジャンプして動きの取れないメギリヌののど笛に食らいついた。
氷天使メギリヌには、流れる血潮はない。
だが、不思議なことに暗黒の邪気にあふれていたメギリヌの身体がだんだんと、純白に変わっていく。最初は身体、次に顔が、最後には変身前から真っ黒だった羽までが白くなっていった。
これこそケルベロス一族が、冥界の門番役を与えられている秘密であった。彼らは、三首の口から発する瘴気によって、神々でさえ意識を失わせて、牛よりも巨大な体躯と狼よりも鋭い牙によって噛みつき振り回し、冥界親衛隊の前に引き出す力がある。同時に、悪に染まりつつあるが、まだ正義の心が残ったものから悪の力を吸い取る力も持っている。そんなことをすれば普通なら、自分が命にもかかわる行為だが、ケルベロス一族は吸い取った悪のエネルギーを瘴気の源として体内に蓄積することができる。ケルベロスは、ユング精神分析学風に言えば、影の人格である「シャドウ」を体内に取り込んで悪を持って悪を制するペルソナであるのかも知れない。
長い時間が流れたようだったが、ジュニベロスがメギリヌののど笛に噛みついてから数分しか過ぎていなかった。
純白の美しい氷天使となったメギリヌが、がっくりと膝をついた。
ジュニベロスが、勝利の雄叫びを上げた。
アォーーン!
その時、タンタロス空間の冥界の門の前にいた父ケルベロスも、息子が父の復讐を果たして魔女に勝利したことを知った。
ガォーーン!
二匹の叫びは、冥界、天界、海神界のみならず、人間界のすべてにまで長く木霊した。
アストロラーベが、言った。
「どうやら勝敗がついたらしいな。約束通り、神導書アポロノミカンの所有権は移動しない。純粋な氷天使になったリギリヌのことは、気がついたら処分をシンガパウム殿にまかせることとしよう。さあ、皆、次の部屋に移動しよう。こちらは、さっき言ったようにスカルラーベ将軍を闘わせる。悪魔姫ドルガよ。そちらは、誰を闘わせるのだ?」
「『酔わすもの』蛇姫ライムがふさわしいであろう。ライムは闘いの神カンフの娘。冥界親衛隊将軍で「荒ぶるもの」スカルラーベの相手に、ふさわしかろう。ただし、ゴルゴン3姉妹で唯一殺すことが可能だったメデゥーサの姉で、不死身のエウリュアレの遠縁でライム自身も不死身。どうやって闘うか見物じゃ」
すでに異次元空間同士をつなぐミラージュの秘法が、残り時間が444分間となっていたことに気づいていたのは、マクミラだけだった。
もしもタイムリミットになってしまえば、何が起こるのか秘法をおこなっているアストロラーベ自身にもわからなかった。
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