この年、ナオミとケイティがディベート・トーナメントで提唱していたのは、SETIと呼ばれる「地球外知的生物探索」(Search for Extra Terrestrial Intelligence)のケースである。1981年に、7人のノーベル賞受賞科学者を含む69人の科学者が提唱しているように、世界的に組織的な地球外知的生物の可能性を探索するべきであるというプランだった。もっとも車椅子の天才科学者でケンブリッジ大学教授スティーヴン・ホーキング博士なら、「地球外知的生物? ちょっと待ってください。地球に知的生物なんていましたっけ?」と言うところだろうが。
彼女たちが、連戦連勝をしていた理由は、人口問題、環境問題、民族紛争、資源問題など人類が抱える問題は、科学技術がはるかに進んだ地球外指摘生物とコンタクトすることですべて解決するはずだという巨大な利益を論じてきたからだった。
しのぎを削っていたのは、後に「1990年代の最強チーム」と呼ばれることになるノースウエスタン大学の天才ペア、ショーン・マカフィティとジョーディ・テリーだった。彼らは、もしも人類よりもはるかに進んだ知性を持つ生命体が存在するならば、彼らから見て人類は「地表を這いずり回る蟻」のような存在であり、興味を持たないだろうという議論を展開した。さらに、もしも人類にはるかに進んだ科学技術を得る機会があたえられたならば、現状の国際関係の対立が宇宙に持ち込まれて「スター・ウォーズ」が勃発すると議論した。
伝統的に主催校は予選をトップ通過しても決勝ラウンドに出場しないため、ノースウエスタン大学主催のオーエン・クーン記念ディベート大会ではナオミとケイティが優勝できたが、他の有力大会では聖ローレンス大学は決勝戦まで進んではノースウエスタン大学ペアに敗れ続けていた。
他大学にはケイティの議論構築能力とナオミのスピーチ能力で連戦連勝でも、ショーンとジョーディのペアと戦うとどうしても議論の反論と、その反論とそのまた反論と、その反論とそのまたさらなる反論を準備されて、最後には「人類は地球規模の問題を解決する機会である」という利益がかえって仇になり、自滅するシナリオに苦杯をなめる結果が続いていた。ナオミとケイティは、3年前に2年生ペアで全米ディベート選手権ベスト8に残って話題になったが、ショーンとジョーディは1年生ペアとしては史上初の同大会ベスト8に進出していた。さらに昨年、2年生ペアでありながらハーヴァード大学4年生チームを決勝戦で下し、全米ディベート選手権初優勝を飾っていた。二連覇を目指す大本命のジョーディとショーンは、大学生活最後の全米ディベート選手権で優勝を望むナオミとケイティには、どうしても越えなければならない壁であった。
ある日、ナオミはナンシーと会話を交わした。
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