儂が目指していたのは死人を別の存在として生き返らせることだったのじゃ。雷の晩につなぎ合わせた死体に電流を流すといった非科学的方法ではない。
儂が目をつけたのは、アポトーシスと呼ばれるいらなくなった細胞が消えて新しい細胞に取って変わられる過程じゃった。たとえば、オタマジャクシのしっぽが無くなってカエルの足が生えたり醜い芋虫が美しい毒蛾に変態するのがそうじゃ。
人間も例外ではない。
胎児も子宮の中で数千万年の人類の進化の歴史を繰り返す。受精した卵は、まず海洋生物に近い姿から、魚、両生類、爬虫類の姿を経て、だんだんとカバのような哺乳類の姿を経て、やっと人間らしい形になっていく。
生物の細胞はアポトーシスと呼ばれる死を繰り返している。ネクローシスという病気によって細胞群の集団内で起こる受動的な崩壊過程と違って、アポトーシスは細胞群の中で散発的に起こる古い細胞が新しい細胞に取って代わられる「積極的な細胞死」の自壊過程と考えられる。なぜなら身体は細胞が別の形態に変化するのでなく、新たな細胞に取って代わられることでしか変態出来ないのじゃ。ほとんどの学者はそのため不要になった細胞が自発的に死んで、きちんと除去されることが必要だと考えた。
しかし、儂はこれを本末転倒ではないかと疑った。
細胞死を発生させるのは、内部まして外部からの誘因ではなく変態パターンの必然性があるのではないかと考えた。ネクローシスがエネルギーを長い時間をかけて漸次進行するのに対して、アポトーシスは短期間に段階的に進行するしエネルギーを必要とする。必要な新細胞が生まれるために古いじゃまな細胞を除去する一つの連続したプロセスこそアポトーシスなのではないか。それは単なる細胞死でなく、新旧細胞交代の一つのつながったプロセスではないのか。たとえば、カエルに足が生えるにはオタマジャクシのしっぽがなくならなければいけない理由があるのではないか。
この新旧細胞の交代メカニズムを解明すれば人間を人間以前だった形態に戻したり、さらに人間を次の段階に変態させることが可能ではないかと考えたのじゃ。
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