1996年3月24日の日曜日。ナオミとケイティのチームは聖ローレンス大学を代表して、ノースキャロライナの名門私立ウェイクフォレスト大学にいた。第50回記念全米ディベート選手権に参加していた。
もしもその年の絶対的優勝候補ノースウエスタン大学を負かすチームがあるとするなら彼女たちだろうと、人々は噂した。他の強豪校もノースウエスタンや聖ローレンス大学と当たることがあれば、一泡吹かせてやろうと「隠し球」を用意していた。
全米ディベート選手権の歴史上、最も有名な隠し球は、1979決勝で前年度の覇者ノースウエスタン大学と対戦したハーヴァード大学が“ニューケース”と呼ばれる、そのシーズンで一度も使っていない肯定側の案を提示した事件がある。想定外のケースを出された大本命のノースウエスタン大学は、5対0で決勝を落とした。それ以降、強豪チームは全米ディベート選手権でのニューケース対策もしなくてはいけなくなった。
通常、ディベート大会は金土日曜日の3日をかけて週末に行われることが常である。金土曜日に各4試合の計予選8ラウンドが行われ、日曜日の決勝ラウンドに成績上位16チームが勝ち進む。
しかしながら、シーズン最後であり同時に最高の権威を持つ全米ディベート選手権だけは異なったシステムを取る。まず木金曜日に各3試合が行われ、土曜日に2試合が行われた後、まず予選全体を通じて8戦全勝、7勝1敗、6勝2敗のチームを選抜し、さらに5勝3敗のチーム同士による追加予選1ラウンドを土曜日夕方に行い決勝に進む16チームを決定するのである。
この年の予選ラウンドは、包括的な宇宙開発を進めるというケースで圧倒的な強さを誇ったテキサスの古豪ベイラー大学が8戦全勝、本命ノースウエスタン大学が7勝1敗、対抗馬の聖ローレンス大学が6勝2敗の成績を残した。
ナオミとケイティは、日曜日の準々決勝で火星探検計画を提唱するジョージタウン大学をカウンタープランで下した。準決勝では、ダートマスカレッジとのアイヴィーリーグ対決を制したハーヴァード大学と対戦後、ヤキモキしながら審査結果を待っていた。
ここで勝利すれば、別ブロックの準決勝カンザス大学対ノースウエスタン大学の勝者との決勝戦に駒を進めることになるのであった。
ついに、ここまで来たわ。
ショーン、ジョーディ、待ってて。最高の試合で私たちの4年間を締めくくってみせる。ナオミは、心の中でつぶやいた。
その時、コーチのナンシー・マウスピークスが青ざめた顔で近寄ってきた。
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