「そうだ、アポロノミカン! 私たちの最後の希望よ」
ドルガが、怒りをあらわにする。「最後の希望か。どこまでおろかなのだ。人間どもを救うことが出来るなど、どこをどう見れば、あやつらが生き残る材料があるというのだ? 天は汚れ、海は穢れ、地中は汚染され、宇宙空間にさえ争いを持ち込もうとする者どもに。自然界の動植物の怨嗟の声が、聞こえぬか? 自らは数限りない獣と同胞さえ殺しておきながら、自分たちに対して危害を加えることはいっさい許さぬ。そんな都合のよい理屈が通ると思っているのか? 最後の希望だと? この闘いで、お主たちの希望など根こそぎ奪ってくれるわ」
「悪魔姫、それでこそお主らしい」アストロラーベが、誘いをかける。「だが、誇り高いお主のことだ。せっかく用意した決戦の舞台ミラージュで最高のカーニヴァルを始めようではないか」
「望むところじゃが、カーニヴァルとはどういうことじゃ?」
人間界に来て以来、調子の出ていなかったアストロラーベが、軍師としての真骨頂をだんだん発揮しているように見えた。だが、実は本人は必死だった。アストロラーベは話し出した。
「ここの回廊には四つのドアが用意されている。それぞれは水が渦巻く部屋、虹が流れる部屋、土煙があふれる部屋、嵐が吹き荒れる部屋へつながっておる。我らが陣営とそちらの陣営からの代表戦と行こうではないか。こちらからは、水が渦巻く部屋には、ナオミを送らせてもらおう。虹が流れる部屋には、スカルラーベ将軍を送らせてもらう。土煙があふれる部屋には、このアストロラーベ自身を送らせてもらう。嵐が吹きあれる部屋にはダニエルを送らせてもらう。お主たちも、代表を送り込むがよい。マクミラを代表にしないには理由がある。それぞれの部屋でお主たちの代表が勝利したならば、望むものは何でも貢ぎ物として捧げよう。マクミラも、その貢ぎ物の一つだ。その代わりに、もしもお主たちが敗者となったならば、我らが軍門に下るというのはどうだ? 代表者以外の者も、立会人として各部屋に入れるだけでなく、一度だけなら闘いに助太刀として入れることとする。だから、マクミラも助太刀には入る」
ドルガが、リギスに尋ねる。「どうじゃ、お主の意見は?」
「いったん決闘を持ちかけられては、たとえ堕天使であっても我々神の血筋を引くものには拒むことは、かなわぬことでありんす。我らの実力なら、精神世界の闘いで後れを取るとは考えらないでありんす。それに、相手が四つの勝負に我らが望むものを捧げるというのなら、願ってもないでありんす」
「リギスよ。それで、我らは何を望む?」
「はい、第一の闘いに勝利したならば、アポロノミカンを所望するでありんす。次の闘いに、勝利したならば、ミスティラを所望するでありんす。第三の闘いに勝利したならば、マクミラの命を所望するでありんす。最後の闘いに勝利したならば、我らに自由を所望するというのはいかがでありんすか?」
「第一と第三、最後の闘いの勝利の暁の貢ぎ物は、それでよいであろう。だが、第二の闘いの勝利の見返りがミスティラとはどういう意味じゃ? 役立たずの妹などよりも、アストロラーベを我が陣営に取り込んではどうなのじゃ?」
「その答えは、冥界の貴公子の顔をご覧になるでありんす」
ランキングに参加中です。クリックして応援よろしくお願いします!
にほんブログ村
最新の画像[もっと見る]
- 『マーメイドクロニクルズ第二部 吸血鬼ドラキュラの娘が四人の魔女たちと戦う刻』の予約が開始されました 3年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部再編集版 序章〜エピローグ バックナンバー 4年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 エピローグ 神官マクミラの告白(再編集版) 4年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−7 ドルガの提案(再編集版) 4年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−1 魔神スネール再臨(再編集版) 4年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 第12章−4 唄にのせた真実(再編集版) 4年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 第12章−3 リギスの戯れ歌(再編集版) 4年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 第11章−9 ライムの受けた呪い(再編集版) 4年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 第11章−8 さあ、奴らの罪を数えろ!(再編集版) 4年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 第11章−6 不死身の蛇姫ライム(再編集版) 4年前