「軍事問題をわたしはケネスといつも話題にしてた」
「おまえの父親はネイビー・シールズの隊長だったな」
「企業はPDCAサイクルを使うけど、軍ではそんなものは役に立たないと言ってた」
「PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の略だな。たしかにPDCAはコンサルタントに、自分たちでも気がついていることを外圧として言わせようとする愚かな人間界の組織が取り入れている手法だな。コンサルタントは問題の指摘だけをして、具体的な改善の方針や方向を出さない。計画を立てる時点で過去や外国の例を検討していなかったり、責任者が責任逃れをしたりするため、うまくいかない理由を分析するだけに終わることも多いし、神々の世界ではシステムの問題ではなく担当者の能力の問題で片付くようなことも多い。だが、なぜ人間界の軍では採用されていないのだ?」
「どんなに綿密に計画を立てても、実際にはけっしてその通りに進むことなんてない。実行すれば必ず計画段階で想定外のことが出てきて、対応できずにせっかくの計画が台無しになってしまうことも多い。もっともアストロラーベくらいの天才になるとあり得ないような計画を立てた上で、逆にその計画通りに進むような段取りを考えるけど」
「お兄様のお世辞はけっこうよ。それで、OODAって何なの?」
「PDCAの問題点が浮き彫りになったのは、ケネスも参戦した1991年の湾岸戦争よ。湾岸戦争時のイラク軍は、最新鋭兵器を持ち、実戦経験豊富な兵士もいたのにも関わらずあっけなく多国籍軍に敗北した。軍が上層部の計画に従うだけのゲームプランを取っていたため、指揮命令系統を遮断されて身動きが取れなくなってしまった。特に、一度始まってしまった戦場における計画チェックなんてまったく意味がない。ケネスは、軍のゲームプランにPDCAを当てはめようとするなんて政治家や軍上層部が前線兵士を消耗品としか見ていない証拠だと怒っていたわ」
「それならOODAループはどう違う?」
「OODAは、Observe(観察)、Orient(状況判断)、Decide(決断)、Act(実行)の略よ。撃墜王と呼ばれたパイロット、ジョン・ボイドが提唱した一応計画は立てても、それにはこだわらないやり方。管理も細かく指示するのではなく、最終ゴールのみを示し、後は流れに任せる。先の見えない状況では、OODAの方が臨機応変に動ける。ケネスは、日本の武道を研究していたけど『後の先』という考えに似ていると言っていわ。相手に初動体勢を取らせて修正が効かなくなってから、その攻撃を避けて相手に斬り返すことができれば最高だと」
なるほど、マーメイドとも話をしてみるものだとマクミラは思った。
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