フェスティバルは、中盤の第四幕「夕焼けに映える真紅の海は、軍神ベローナの勝利の雄叫びの刻」にさしかかった。都の支配をねらう蜃気楼の魔神が現れて、サソリを通じて魔女たちをそそのかして太陽の化身たちに争いを仕掛けるというストーリーだった。
「ヤー・バアヒィヤ」(“Yah Bahiyya”)の不気味な調べが始まりサソリの仮面がかぶった役者が、ステージに踊り出た。なぜか小脇に何か本のようなものが入った特殊ガラスケースを持っている。
役者が、甲高い子供のような声で叫ぶ。
ウヒヒヒヒ、ついに時が来たぞ!
ピョンと逆立ちすると、台本とはまったく違った歌を歌いだす。
いつの間にか曲が、「リバース」(“Rebirth“)に変わっている。
すべてを燃やし尽くす蒼き炎が
すべてを覆い尽くす氷に変わり
猛々しき白骨が愛に包まれて石に変わり
冥界の神官が一人の人間の女に変わる時
巨大な合わせ鏡が割れて
太古の蛇がよみがえり
新たなる終わりが始まりを告げて
すべての神々のゲームのルールが変わる
さあ、新しいゲームの始まりだ!
サソリの仮面をかぶった役者が宣言する。まだ出番ではなかった冥界からの助っ人クラリス役マクミラが、ハスキーボイスで尋ねる。
「蜃気楼の魔人よ、何を考えている?」
「何も考えてない。ただ、その時々にしたいことをするだけ。ケケケケ、ボクが手に持っているものが何かわかる? このケースを開けてしまえば、この会場中におもしろいことが起こるよ」
「まさか! アポロノミカンを持ち出しているのか?」
「クックックッ、そのまさかだよ。おねえちゃんと直接、話すのは初めてだね」マスクをはずした顔は、メイクアップでもしたようなピエロ顔でニヤニヤ笑い。髪がザンバラになって、下に垂れている。「ボクの名前は、さかさまジョージ。リギスねえちゃんがつけてくれた渾名は、サーカス団で育てられた悪魔の子、遊園地に住みついた魔法使い、人にまざってレスリングに興じるゴブリンだよ」
「マッドの奴、元々狂っていたが、とうとうおかしな奴に乗っ取られたか」
「ちょっとちがう。進化したと言ってほしいね。弱虫魔道やいじけるしか能のないマッドとちがって、ボクには知恵がある。悪知恵だってね。もうマクミラねえちゃんを思って、苦しむこともなくなるんだ。魔女たちとボクは取引した。おねえちゃんたちがマクミラねえちゃんを誰のものでもなくしてくれれば、ボクがアポロノミカンをおねえちゃんたちのために使いこなしてあげる。さあ、ドルガねえちゃん、登場〜!」
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