太陽に遠く映るその影が黒点として知られる四次元空間エリュシオン。
ここは「光の眷属」でなければ、瞬時に蒸発してしまいかねない光と灼熱の空間。その空間にゆがみが生じ始めていた。
エリュシオンのゆがみは光のパワーのゆがみ。それは、いやおうなしに光と闇のパワーバランスのくずれを意味していた。
いつもならのんびり飛び回る極楽鳥の錦鶏鳥と銀鶏鳥が、ただならぬ雰囲気を感じて宿り木から離れようとしない。
大広間で、「天翔るもの」ユピテルが怒りのオーラを発散していた。
うっかり近づこうものなら、ユピテルを熟知した神官でも命の保障はない。
黄金の光につつまれた全身から四方八方に発せられる雷鳴と稲妻こそ、ユピテルを最高神中の最高神ならしめている秘密。たとえ神々でもユピテルの電撃をまともに受ければ粉々に飛び散り、その存在は永久に失われる。
それでも天界の親衛隊長で「継ぐもの」アポロニアは、ユピテルの隣でりりしい姿を見せている。
海神界と冥界の最高神までが、「天翔るもの」ユピテルの支配するオリンポス神殿に呼びつけられていた。「揺るがすもの」海主ネプチュヌスは水を支配し、「裁くもの」冥主プルートゥは火を支配する。だが水は高熱を苦手とし、火は流水や氷を苦手にする。ネプチュヌスとプルートゥがそれぞれ弱点をかかえているのに対して、ユピテルの雷撃だけは業火をなぎ倒し流水を蹴散らす万能の兵器であった。
天界の最高神たちが魔界の王たちと、数万年振りの相談ごとを始めていた。
数億年にわたる争いを繰り広げた天界と魔界には休戦協定が結ばれており、特別な機会を除いては厳しく交流が禁じられていた。
数千年前、大将軍“ドラクール”に率いられた冥界親衛隊に敗北を喫した魔界は、形の上では冥界の指揮下におかれることになった。
しかし、魔界には一種の自治権が認められており、あくまで独立国の形態を取っていた。そのため、神界と魔界の最高指導者同士が会うことは容易でなく、万が一にも相手側に攻撃の口実を与えたり弱みを見せたりすることがあれば、新たな争いの誘因になりかねなかった。
仮に天界と魔界が争えば、天主ユピテルと冥主プルートゥが争って地球滅亡の手前まで行った第一次神界大戦どころではない宇宙そのものの破滅の可能性さえあった。そのため、双方が相談事を持つときは直接に顔を合わせるのではなく、ある鏡の儀式が執り行われることになっていた。
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