2019年5月11日
「中東情勢の緊迫化にも注意が必要か、原油価格に影響等も」
原油価格のベンチマークのひとつであるニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は、4月23日に66ドル台に上昇したあと、戻り売りに押され、5月に入り60ドル近くまで下落したところで、もみあいとなっている。
市場では米中の通商交渉の行方に目が向けられており、原油先物もそれを睨んだ動きとなっているが、念のため中東情勢にも目を向けておく必要があると思われる。
トランプ米大統領は1年前、イランと米英など6か国が2015年に交わした核合意からの離脱を表明。さらに米政府は今年の4月末にイラン産原油輸入禁止の適用除外を打ち切ると発表した。
イランの軍幹部は同国産原油の全面禁輸を米国が発表する前に、ホルムズ海峡の利用を妨げられるならイランが海峡を閉鎖すると述べていた。
欧州を歴訪中であった米国のポンペイオ国務長官は5月7日のドイツのメルケル首相との会談を「緊急の要件」があるとして突然中止し、その後、イラクのバグダッドを電撃訪問。当然ながらこれはイランの動向を睨んだものといえる。
米国のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は5日夜に中東に空母打撃群と爆撃部隊を派遣すると発表していた。イランが関係するとした「幾つかの不穏なエスカレートの兆候」に言及し、「明確なメッセージ」を同国の政権に伝えることが派遣の目的だと説明している(ブルームバーグ)。
新たに派遣されたのは「空母打撃群」と呼ばれる海軍部隊となり、原子力空母やミサイル巡洋艦、ミサイル駆逐艦、原子力空母などで編成される。今回はエーブラハム・リンカーンを中心とする空母打撃群が、戦略爆撃機「B-52 ストラトフォートレス」とともに中東を目指している。
米中の通商交渉の行方はひとまず9日、10日の閣僚級会議の結果ではっきりする。何らかの譲歩をして追加関税は免れるのか、それとも関税引き上げとなっても即時発動ではないことでこれを利用しての時間稼ぎをするのか、はたまた決裂するのかはわからないが、何らかの決着はつく。
その後あらためためて、きな臭くなっている中東情勢に市場の目が向けられる可能性もあり、米国やイランの動向、さらにそれによる原油価格への影響等にも注意しておく必要がありそうである。
2019年5月10日「米中両国による追加関税の応酬の可能性が高まっているが、そもそも関税(tariff)とは何か」
米国のトランプ大統領は中国からの輸入品2000億ドル相当に賦課する関税率を、東部時間10日午前0時1分(日本時間同午後1時分)にこれまでの10%から25%に引き上げると明らかにし、米通商代表部(USTR)は連邦公報のウェブサイトに正式な通知文書を掲載した。
これに対して、中国も米国が計画する対中関税引き上げが発効すれば、報復措置に出る方針を表明した。
ただし、トランプ大統領は8日の朝、中国の代表団が訪米するのは「合意を成立させるためだ」と同国が伝えてきたとツイート、ホワイトハウスのサンダース報道官は記者団に対し、「中国から、合意に前向きな示唆があった。米国の交渉団は明日、中国側と協議する。結果を見守る」と述べたそうである(以上、ブルームバーグの9日の記事より引用)。
9日からのワシントンでの米中協議でぎりぎりの交渉が行われる。今回、米国の態度を硬化させたのは、中国の産業補助金を巡る問題とされているが、中国は米国側がある程度譲歩すると読んでいたのではとの見方もあった。中国の補助金は産業育成策「中国製造2025」の骨格といえるものであり、中国側としては撤廃することは難しい。このため改革案を明記することも控えようとしたものの、これに米国側からの怒りを買った、米国側はここは譲ることができないものであったといえる。今後、どのように決着するのか、決着できるのかは不透明ながら、お互い何らかの譲歩をしてくる可能性は確かに皆無ではない。
ところで、いまさらではあるが、今回、市場を揺るがしているタリフマン(関税男)のタリフ(tariff=関税)とは何であるのかを確認してみたい。
関税とは何か。これについては「税関」のサイトに説明がある。
「関税のしくみ」http://www.customs.go.jp/shiryo/kanzei_shikumi.htm
関税とは
「関税は、歴史的には古代都市国家における手数料に始まり、内国関税、国境関税というような変遷を経てきましたが、今日では一般に「輸入品に課される税」として定義されています。」
関税といってもかなり複雑であり、詳しくは上記のサイトを確認していだきたいが、今回問題となっているのは「特殊関税」と呼ばれるものとなっているようである。
特殊関税
「特殊関税とは、WTO協定で認められたルールとして、不公正な貿易取引や輸入の急増など特別の事情がある場合に、自国の産業を一時的に救済するため、通常課されている関税に追加的に課される割増関税で、不当廉売関税、相殺関税、報復関税及び緊急関税(セーフガード)などがあります。その他、各経済連携協定に基づく二国間セーフガードがあります。」
上記は日本の関税に関するものではあるが、今回米国政府が発行しようとしているものも、この特殊関税にあたるものとなろう。中国が不公正な貿易取引を行っているとして、自国の産業を一時的に救済するため、通常課されている関税に追加的に課すものとなる。
関税のサイトの特殊関税の説明には、「制度の濫用や恣意的な運用は避けつつも、適切に活用されることが重要です」とある。トランプ大統領の今回の対中関税引き上げは、この制度の乱用とも捉えかねず、政治的な利用ともいえる。また、関税を上乗せすることによって米国政府の税収がその分増えても、米国内の景気に悪影響を与えることも予想される。このため米国株式市場などにも悪影響を与え、それが日本の金融市場にも影響を及ぼしているのが現状である。