![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/80/2531b989cb8dd644354e5f65f248653a.jpg)
亡き次男に捧げる冒険小説です。
===============
〇九
腹も満たされ一息つくと、テーリが真剣な顔で切り出した。
「僕たちの初ミッションなんだけど、《サンダー渓谷》でやり残したことを片付けたいんだ。」
ハーラもナーレも意外そうにお互いの顔を見やった。
「当面の目的は、テー兄の記憶探しじゃなくていいの?」
これから西に向けて進むものとばかり思っていたナーレは怪訝に聞いた。
「それは後回しでいい!」
テーリはキッパリと答えた。
「渓谷でなにをやり残したんだ?」
ハーラは当然の疑問をテーリに投げ掛けた。
「昨晩この宿屋に着くまでも、さっき朝食を摂りながらも、ずっと気になっていたんだ。僕たちが撃退した《ウォーグ》の生き残りについてさ。」
ハーラもナーレも身を乗り出した。今更あの手負いの《ウォーグ》に何の用があるのかと、テーリの真意が気になったのだ。
「僕は《野伏せり》だ。魔獣の生態には精通している自負がある。《ウォーグ》は厄介だ。執念深い。あそこまでの手傷を負わされたんだ。復讐のために手当たり次第に人を襲う。」
四匹の魔獣のうち二匹は圧倒的な力で叩き伏せることに成功したが、残りの二匹には力及ばず逃走を許してしまった。あの時は義兄弟たちも満身創痍でそれもアリかと思ったが、充分に休息をとった今は、自分たちの爪の甘さが歯痒くなってきた。自分たちの不始末が《ゴール橋》を渡る旅行者や隊商の命を危険に晒すかもしれない。そう思ったハーラはすぐにテーリに賛意を示した。
ナーレは正直に反対をした。《ウォーグ》の復讐劇を未然に防止する義務が自分たちにあるとは思えなかったからだ。それに報酬の問題もあった。
「テー兄。冒険者が怪物を相手にするときは、怪物退治を依頼された時かお宝探しの邪魔をされた時だけだ!それ以外の戦いは避けるべきで、無益だ!」
なるほどそれも正論だとハーラは感じた。ナーレは僕らの懐事情まで勘定に入れてくれている。貴族の出のハーラには多少の持ち合わせがあったが、三人旅となると正直心許なかった。テーリはナーレの肩を強く叩いた。
「安心してくれナーレ。その点に抜かりはない。《サンダー渓谷》は《竜》の住う伝説が残る地だ。そんな場所は危険だから、手付かずの遺跡やらお宝やらが残されている可能性が充分にある。僕の標的は《ウォーグ》だけじゃない。《サンダー渓谷》に秘められたまだ見ぬ財宝もその一つなんだ!」
テーリはナーレを担いでいた。ナーレの現金な面を逆手に取って、協力を仰ごうと思ったのだ。
「さすがテー兄だ!この話、乗った!」
ナーレの人を疑わない素直さにテーリの心がちくりと傷んだ。それでもテーリの正義感は《サンダー渓谷》の《ウォーグ》征伐を欲している。義兄弟の最初の冒険はこうして決まった。出会いの地、《サンダー渓谷》を再攻略するのだ。
【第2話 一〇に続く】
次回更新 令和7年2月11日火曜日
===============
ついに冒険に出発だ!義兄弟が動くとあれば、当然ヴァッロたちも…。