亡き次男に捧げる冒険小説です。
二七
宿場町の宿屋の一室でハーラとテーリとナーレは、ベッドを三つ並べ、天井を見ながら話をしていた。幼い時にどんな昆虫が好きだったとか、英雄譚の中で一番強いのは誰々だとか、そんな他愛のない話題に花が咲いた。お互いを知るための情報交換は一切せずに、ただただ馬鹿話を楽しんだ。暫く話し込んでいたが、次第に戦いの疲れが襲ってきた。
瞼が重くなってきたテーリとナーレが寝入る寸前、ハーラが二人に突飛も無いことを持ちかけた。
「なあ、僕たち義兄弟の契りを交わさないか?僕が長男分でさ。」
一瞬で眠気が覚めたテーリはノリノリだった。義兄弟が力を合わせて挑む冒険を思い浮かべてニヤけていた。
「それじゃあ、僕は義兄弟の要の次男分か…。」
これまた眠気の覚めたナーレが笑いながら続ける。
「どうせ僕が一番下っ端の弟分なんだろ。言われなくてもわかってるよ!」
誰も構っていないのに、一人で勝手に拗ね出した。ただのおふざけであることがわかっているので、ハーラもテーリも特にナーレには取り合わなかった。
「僕は感じるんだよね、今日の出会いは運命なんだって。この三人で何かをしなくちゃいけない運命なんだって。だから、三人はこの先一蓮托生。命を賭けて助け合う義兄弟でありたいんだよ。」
ハーラは改めて自分の胸の内を明かした。なぜか名前を知っていた三人。顔を見合わせると無性に泣けてくる三人。そんな三人だからこそ、否が応でも肉親以上の強い絆を感じてしまうのだ。
「僕は賛成だ。二人には命を救ってもらった。この恩義は一生ものだもの。僕はハー兄の弟分になりたいし、ナーレの兄貴分にもなりたい!そうして恩義を二人に返したい!」
真ん中のベッドのテーリは身体を起こすと、ナーレの方に身体を向けた。同じタイミングでハーラもナーレも身体を起こした。
「ハー兄、テー兄、僕も二人を助けたい。ハー兄は実家のことで苦しんでいるし、テー兄は記憶をなくして困っている。僕がいなくちゃ多分、二人は何にも成せないと思うんだ。二人のために付き合ってあげるよ、しっかり者の弟分としてね!」
ハーラもテーリも腹を抱えた。ナーレがしっかり者?末弟は甘えん坊に決まっているだろう、とナーレを小馬鹿にして。
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【第1話 二八に続く】
次回更新 令和7年1月14日火曜日