亡き次男に捧げる冒険小説です。
二六
《ゴール橋》の東側には、西に向かって歩いていく三人組をじっと見つめる一団、四人の人影があった。その中にはヴァッロの姿もあった。
「彼らは想像以上に強かった。儂らが助けるまでもなかったことに驚きもしたし、安心もしたよ。」
四人のうちの一人、ローブを纏った痩身の《ドラゴンボーン》が呟いた。ヴァッロに「チッチ様」と呼ばれた人物だ。《ドラゴンボーン》にしてはかなりヒョロリとしている。180センチメートルを超える上背の割に筋肉がついていないため、《ドラゴンボーン》らしからぬ弱々しさがあった。その身なりと身体付きから《魔術師》であることが窺えた。
「そうですね。でも本当に安心していいかは、まだ決められないでしょ?」
四人の中では一番背の高い《ケンタウロス》の《聖職者》が相槌を打ちながらも、懸念を述べる。女性らしい柔らかな物言いだった。
「彼らが欄干から飛び降りるのを目の当たりにした時は肝が冷えた。だが、なかなかどうしてやりおることだ。もう少し様子を見守りたい。合流することは容易いが、今すぐというのは心の準備が整わない。」
チッチは心配事があるようで、肩をすぼめた。
「それもわかる話です。私も自分自身が心配ですから…。」
《ケンタウロス》の淑女はそう答えると同じく肩をすぼめると、パカリパカリと蹄を鳴らして橋に向かって歩き出した。続けてチッチが歩き始めると、ガチャリガチャリと金属が擦れ合う甲高い音を立てて従者と思しき《小人》が続いた。《小人》は振り向いて、意味深にヴァッロとその奥に視線を送る。ヴァッロは辺りをキョロキョロと見回す。《小人》の送った視線の先に、ハーラの連れである馬が繋がれていることに気が付いた。ヴァッロは欄干に括り付けられた手綱を器用に外すと、おもむろに馬を引いてスタスタと歩き始めた。
「オデを置いていかないでーよ。」
言葉とは裏腹に、ヴァッロの動きはのんびりしていた。呑気な奴だと《小人》は呆れていた。
【第1話 二七に続く】
次回更新 令和7年1月12日日曜日
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用語解説
《ドラゴンボーン》
竜のような見た目の人型生物。竜と同じ特質を有するものが多く、ブレス攻撃をしたり、翼を出して飛べたりする者もいる。屈強な者が多いため、チッチのようなドラゴンボーンの魔術師は珍しい。
《魔術師》
ウィザードとも。魔法使いとしては最もポピュラーなクラス。魔術書の研究などを通じて、呪文を学ぶ。他の魔法使いクラスに比べて、「学ぶ」というクラス特徴のため使用できる呪文の種類は桁違いである。
《ケンタウロス》
半人半馬の人型生物。下半身が馬のため、身長が非常に高くなる。D&Dではプレイアブルキャラクターの一つである。
《聖職者》
クレリックとも。魔法使いクラスの一つ。主に体力回復やバフとなる呪文を操る。神派の信仰心を呪文の素とするため、必ず何らかの神を崇めている。