今回のCDは、「ヘンデル:オラトリオ《ギデオン》」(NAXOS:8.557312-3)(ヨアヒム・カルロス・マルティニ指揮、フランクフルト・バロック管弦楽団(オリジナル楽器使用))(ライブ録音:2003年6月、エーベルバッハ修道院、ドイツ)です。「ヘンデル:オラトリオ《トビト》」(NAXOS:8.570113-4)と同様、ヘンデルの純正オラトリオではありません。ヘンデルに鍵盤楽器を師事したスミスという人物(John Christopher Smith (1712-1795))がヘンデルの死後、オラトリオ演奏の伝統を継承しようと試みて、ヘンデルの曲から素材を選び、スミス自身も作曲した音楽を付加し、同じくヘンデルと共に仕事をしてきたモレルが旧約聖書「士師記」から題材をとった新しい台本を書き、オラトリオ化したものです。ヘンデル純正作品ではないので聴くのにちょっと気合が入らないのですが、演奏も素晴らしく、楽しく聴いてしまいました
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ドイツ・ハルモニア・ムンディから、「ヘンデル:歌劇《リチャード一世》」(BVCD:37403-05)(ポール・グッドウィン指揮、バーゼル室内管弦楽団(ピリオド楽器使用))(録音:2007年5月23日-6月1日、バーゼル、マルティン教会、スイス)が昨年出ています。ソプラノはヌリア・リアル、カウンターテナーはローレンス・ザッゾで、「ヘンデル:愛のデュエット集」(BVCD:31019)も収録しています。
ライナーノーツ(水谷彰良)によると、《イングランド王リッカルド一世》は第一次王立音楽アカデミー時代(1720-28)の作品で、名作《エジプトのジューリオ・チューザレ》(1724)から6作目の歌劇です。王立音楽アカデミー(ロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージック)は国王ジョージ一世を最大の保護者に、ヘンデル作品の恒常的上演を目的に設立された株式会社です。
ヘンデルは1727年2月20日にイギリスに帰化していますが、この帰化がこのオペラの作曲のきっかけとなったようです。同年5月16日には既にこのオペラを完成しています(いつもながらヘンデルの筆の早さには驚かされます!)。6月11日にジョージ一世が逝去したため、ヘンデルとこの曲の台本の劇作家であるパオロ・アントーニオ・ロッリは、このオペラを新国王ジョージ二世に捧げようと考え、10月11日のジョージ二世の戴冠式を経て、11月11日にヘイマーケットのキングス劇場で初演が行われています。その後、12月16日まで合計11回上演されたようです。
獅子心王の異名ををとる12世紀のイングランド王リチャード一世(役名:リッカルド一世)のキプロス征服、ナバラ王サンチョ六世の娘ベレンガリア(役名:コンスタンツァ)との結婚を話題にしたオペラで、一定の史実に基づいているようですが、詳細は長くなるので、水谷彰良氏の分かりやすい解説を参考にして下さい。
ヘンデル42歳の時の作品で、エネルギッシュな勢いのある溌剌とした作品です。特に有名な楽曲はありませんが、ヘンデルらしい名曲です。
Archivから、「ヘンデル:歌劇《ロデリンダ》全曲」(HMV 19)(UCCA:1053/5)(アラン・カーチス指揮、イル・コンプレッソ・バロッコ)(録音:2004年9月 サンマルティノ・アル・チミノ、11月 ハンブルク)が出ています。この歌劇は1725年ロンドンでの初演以来、つねに3本の指に入る人気曲であったようです。全曲が完全にレコーディングされたのはこのCDが初めてです。ヘンデルのアリアはどれも美しいのですが、この《ロデリンダ》のアリアはどの曲をとっても美しく特に聞き応えがあります。私のお気に入りは、第2幕、第5場、第20曲のアリアとレチタティーヴォ「しわがれたささやきとなって」-「亡くなったお兄様の声音に」です。何回も聴き直したくなる魅力的なCDです
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ドイツ・ハルモニア・ムンディから、「ヘンデル:愛のデュエット集」(BVCD:31019)(指揮&チェンバロ:ローレンス・カミングス、バーゼル室内管弦楽団)(録音:2007年8月11日-15日、リーエン、ラントガストホーフ、スイス)が出ています。ソプラノはヌリア・リアル、カウンターテナーはローレンス・ザッゾです。7つの歌劇からの抜粋です。ライナーノーツ(水谷彰良)によると、ヘンデル(1685-1759)は、ハレ大学入学後の1704年にハンブルグのゲンゼマルクト劇場のヴァイオリン奏者となり、翌年の1705年に最初の歌劇《アルミーラ》を初演しています。続いて、約3年間ローマで活動し、その修行の総括として歌劇《アグリッピーナ》(1709年)をヴェネチアで発表しています。その後、1711年にロンドンで《リナルド》が大成功を収め、以降イギリスで30年間に36作のイタリア・オペラを作曲しています。
ヘンデル時代のイタリア・オペラは、レチタティーヴォとアリアの反復で、比較的単調であり、重唱やアンサンブルは例外的であったようです。ヘンデルは定型的な様式を独自に改良し、バロック・オペラの頂点に達しており、二重唱も効果的に挿入されています。このCDは、ヘンデルの歌劇の魅力を十分に感じさせます。あらためてヘンデルの全てのオペラを踏破したいと思いました。
《メサイア》の新しい録音が出ていたので買ってみました。左のCDで、「ヘンデル:メサイア[ヘルダーによるドイツ語版]」(BVCD:37406-07)(ヴォルフガング・カチュナー指揮、ドレスデン室内合唱団&ラウッテン・カンパニー)(録音:2004年1月13日-18日、バート・ラオホシュテット、歴史的クーアザール、ドイツ)です。ライナーノーツ(バベッテ・ヘッセ)によると、ヨハン・ゴットフリード・フォン・ヘルダー(1744-1803年)は若い頃のゲーテに影響を与えたドイツの思想家です。《メサイア》のダブリンにおける初演は1742年4月13日ですが、ドイツで最初に《メサイア》が演奏されたのは、ヘンデルの死の13年後、ダブリンの初演から30年後の1772年で、その時は英語版だったようです。その3年後の1775年にハンブルクでカール・フィリップ・エマニエル・バッハ指揮でクロプシュトックとエーベリンクのドイツ語版が上演されたようです(メサイアがバッハとここで関係していたとは思いませんでした!)。その当時、ワイマール公国の宮廷牧師、教区監督、ギムナジウム及び学校長を勤めていたヘルダーが1780年(あるいは81年)にチャールズ・ジェニンズ(1700-1773年)の英語原詞をドイツ語に訳詞し、ヴァイマールやドレスデンで演奏されたようです。今回のCDはヘルダー訳詞によるドイツ語版《メサイア》の世界初録音です。
演奏を聴いた印象は、表情豊かで、繊細で、丁寧で、ある意味で理想的な演奏と言っていいと思います。ただ、ヘンデルの持っている雄大さや明るさがもっとあれば完璧でしょう。ちょっと聞いた感じではドイツ語の硬い感じはなく、原詞と比べても違和感はありません。他の演奏とは違う演奏で、楽しく聞けました。
昨年後半からバッハと共にヘンデルのCDも聞いています。繰り返し聞いたり、BGMとして聞き流してヘンデルの作品が脳に馴染んでいくに従い、バッハと違う魅力を感じてきました。
今回、「ヘンデル:王室礼拝堂のための音楽」(NAXOS:8.557935)(アンドリュー・ガント指揮、王室礼拝堂合唱団)(録音:2005年7月18-20日、Chapel Royal、St James's Palace、ロンドン)を聴いてみました。
ヘンデルはイギリスに移住してから約30年間ほとんどオペラ活動に従事しており、教会音楽は少ないようですが、イギリス王室との交流があったため、王室礼拝堂用の教会音楽をいくつか作曲しています。このCDは、1717~1718年にシャンドス公爵の私的な礼拝用に作曲された「シャンドス・アンセム」(11曲)のうち5曲が収録されています。アンセムとは、イギリス国教会の礼拝用のための教会音楽を指すようで、HWV番号で246-277に相当します。
いずれの曲も厳かで、格調高く、ヘンデルの才能の高さを再認識しました。
2008年(昨年)は、アンダーソン生誕100周年で、NAXOSから管弦楽作品集が出版されました。全5巻まで出ていますが、多分これで終了でしょうか。一応、全部揃えて、聴いてみました。今回は良く知られている作品以外にも、世界初録音の曲も多く収録されており、非常に興味深く聞きました。出版されておらず、遺族から楽譜が提供された曲もあるようです。
古き良きアメリカ的なイメージがあり、理屈抜きで楽しく聞けます。友人や、恋人へのプレゼント用にも向いているのではと思います。ピアノ協奏曲はとても面白く、ラフマニノフとガーシュインとジョン・ウイリアムズがミックスされているような感じです。また、ミュージカルもとても楽しいです。いかにもアンダーソンの世界で、バロック音楽をいつも聞いていると、こういう曲もたまには聞いてみるのも良いなぁ~と思ってしまいます。
年末年始もボチボチ音楽を聞きながら仕事をしています。今回は、「ザ・グレン・グールド・コレクション」(6DVD-BOX)(SONY:SIBC 116~121)を店頭で見つけて、おもわず衝動買いしてしまいました。以前より、グールドの映像がまだかまだかと首を長くして待っていました。ざっと見た感じでは、バッハの演奏に関しては収録時間が短くて、ちょっと物足りない感じですが、このBOXの最後に、中学1年の時に見た、グールドによるベートーベンのピアノ協奏曲「皇帝」の映像(1970年2月、トロント交響楽団)を見つけたのが収穫でした。中1の時以来、彼の強烈な個性が脳裏に残っていて、この映像をずーっと探していたので、やっと手に入ったという感じで、特に感激しました。この収録がミケランジェリの代役で(彼が理由もなく急にキャンセルしたようです)、急遽決まったことがこのDVDを見て初めて分かりました。メニューインとの対話の場面も見所です。やはり、グールドの演奏への集中と音楽への陶酔は、見るものを感動させます。彼の独り言と指揮をするようなジェスチャーは、これがないとかえって物足りなくさえ思います
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