2005年に、諏訪内晶子さんのCD、「J.S.バッハ ヴァイオリン協奏曲集」(PHILIPS:UCCP 1114)(録音:2005年8月8日-10日、ロンドン、ヘンリーウッド・ホール)が発売された時から気になっていたのですが、発売時にお店で試聴した時にあまりインパクトがなかったのでそのままになっていました。先日、たまたま久しぶりに店頭に置いてあったので買ってみました。諏訪内さんのバッハの録音は、このCD以外には「諏訪内晶子ベストCrystal」(UCCP 3041)に無伴奏パルティータ第3番:前奏曲があるだけです。解説書(諸石幸生著)によりますと、1990年にチャイコフスキー国際コンクールの優勝から15年が経過し、かつてハイフェッツが愛用していたストラディヴァリウスの銘器「ドルフィン」を日本音楽財団からの貸与という形で用い始めて5年が経過した時期での録音です。2つのヴァイオリンのための協奏曲二短調の第3楽章なかに、ウィーン生まれの名ヴァイオリン奏者ヨーゼフ・ヘルメスベルガー(1828-1893)の手によるカデンツァが挿入されており、これは結構聞き応えがあります(ちなみに、カデンツァとは、一般的に、独奏協奏曲の中で、独奏楽器がオーケストラの伴奏を伴わずに自由に即興的演奏をする部分のこと-ウィキペディアより-)。
繰り返して何回か聞いてみたのですが、諏訪内さんの特徴として、音色が非常にまろやかで、伸びやかで、オーケストラと一体化しており、あまり主張しすぎていない、突出していないことのように思います。歌うような、しなやかな、清楚な、女性らしい演奏です。バッハのヴァイオリン協奏曲では普通、独奏ヴァイオリンが主張する演奏が多いのですが、こういう和のバッハもありかなと思わせる演奏です。2つのヴァイオリンのための協奏曲二短調の第3楽章のカデンツァではさすがに技巧を感じさせます。
2台のチェンバロのための協奏曲ハ短調(BWV1060)を復元した、「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲」も収録されており、フランソワ・ルルーのオーボエの伸びやかな音色と彼女の伸びやかなヴァイオリンの音色の絡み合いが美しく、彼女の良さが非常によく出ている演奏と思います。このアルバムでは最も新鮮な演奏に感じました。
「バッハとクラヴィコード~J.S.バッハ&C.P.E.バッハ鍵盤作品集」(Fuga Libera:MFUG 508)(クラヴィコード:ジョッスリーヌ・キュイエ)(録音:2004年10月8日、ジェティニェ、ラ・ガレンヌ・ルモ城)が店頭にあったので買ってみました。
クラヴィコード、チェンバロなどの鍵盤楽器については、チェンバリストの渡邊順生氏のサイトに詳しく解説されていますので参照して下さい。チェンバロが弦をジャックではじいて音を出すのに対して、クラヴィコードは弦をタンジェントと呼ばれる金属片で下から突っついて発音します。チェンバロでは音の強弱や微妙なニュアンスが出ないと言う欠点があるのに対して、クラヴィコードではタッチしだいで音の微妙な強弱、ニュアンスが弾き分けられ、多彩な表現が可能なデリケートな楽器ですが、クラヴィコードでは演奏者にしか聞こえないくらい小さな音しか出ないため、演奏会や録音には不向きで、今まであまりCDも多くは発売されていないのが現状です。大バッハのみならず、大バッハの次男であるカール・フィリップ・エマニエル・バッハもこの楽器を特にお気に入りであったようです。彼の著書「正しいクラヴィーア奏法」にも“鍵盤楽器奏者の実力を推し量るには、クラヴィコードが最適な楽器である”との記載があるようです。
このCDは、クラヴィコードの魅力を最大限に引き出した録音で、解説書には録音技師のフレデリク・ブリアンのコメントも載っており、興味深いCDと思います。極めて近接したマイクロフォン・セッティングを行っているようで、確かに従来のクラヴィコードの録音に比べると遥かに味わい深いように思います。チェンバロとクラヴィコードの両方を演奏したことのある人でないとこのCDの本当の良さは分かり難いのかも知れませんが、聴いて損はないCDでしょう。
ホロヴィッツによる「ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番」(BMG:BVCC 37647)(指揮:ユージン・オーマンディ、ニューヨーク・フィルハーモニック)(録音:1978年1月8日、ニューヨーク、カーネギーホールでのライブ・レコーディング)の再版盤が発売されていました(左のCD)。この演奏には特別な思いがあります。単独のCDとしては最も多く聴いた演奏の一つです。その後、このCDが紛失してしまって、また買わないといけないと思っていた所でした。ホロヴィッツは1989年11月5日にニューヨークの自宅で亡くなったのですが、この演奏を聴いている最中に彼の死亡のニュースを聞いたのも印象に残っています。好みにもよりますが、この演奏を超えるラフマニノフの第3番はもう出ないのではないかと思います。久しぶりにこの演奏を聴いて、懐かしく感じるとともに、ホロヴィッツのような偉大なピアニストが今後また早く出てきて欲しいと思いました。
ホロヴィッツはこの演奏と同じ年の9月にも、第3番を再度演奏しており、これがDVDになっています。右のDVDで、「ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番」(ユニバーサル:UCBG 1028)(指揮:ズービン・メータ、ニューヨーク・フィルハーモニック)(録音:1978年9月24日、ニューヨーク、エイヴリーフィッシャー・ホールにおけるライブ収録)です。この演奏はCD化されていないと思います。色々な角度からの映像により、ホロヴィッツの意気込みや独特な彼の指の動き(指の腹で鍵盤を触るような)が良く分かります。ただ、カーネギーホールでの演奏より、ミスタッチが多いように思います。また、スピードが速いところや、第3楽章最後のフィナーレの所で、メータの指揮よりホロヴィッツのテンポがやや遅れるのが気になる所です。やはり年を感じさせる所があり、CD化出来なかったのではと勝手に思っています。というより、カーネギーホールの演奏があまりにも素晴らしかったと言った方がいいのかも知れません。それにしてもホロヴィッツの年齢を感じさせない気迫、集中力には圧倒され、目が釘付けになります。
この2つのCDとDVDは永遠に残る名盤といえるのではないかと思います。
メサイアのDVDの再版盤が発売されていたので、買って見ました。左のDVDで、「ヘンデル オラトリオ《メサイア》全曲」(指揮:クリストファー・ホグウッド、アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック)(収録:1982年1月、ウェストミンスター大聖堂)(ワーナーミュージック:WPBS 95058)です。1754年の捨子養育院で演奏された時の版による演奏です。添付の矢澤孝樹氏による解説は、非常に良く分かりやすく、且つ面白いです。詳細は省略しますが、オリジナル楽器を使用して、具体的な上演記録として残された版になるべく従い、歴史的状況の再現を徹底した録音です。非常に禁欲的で、贅肉が削ぎ落とされた演奏ですが、ウェストミンスター大聖堂の残響がかなり効果的で、それとの調和により魅力的な雰囲気を醸し出しています。映像のカメラワークも斬新で、今のDVDではなかなか見られない趣向が沢山あります。詳細は見てのお楽しみですが、ソリストのアップ映像とカメラ目線にはちょっとドキッとして、落ち着かないのですが、妙な緊張感があります。“悪役フェイスのデイヴィッド・トーマス”(矢澤氏の表現を借りてます)のカメラ目線はなかなか迫力があります。兎に角、新鮮なDVDです。再版なので見ている方も多いと思いますが、まだの方は是非御覧下さい。買って損はない演奏です。このウェストミンスター大聖堂でのメサイアの映像を見ていると、やはりヘンデルはイギリスの雰囲気に合っているなぁとつくづく感じます。
このDVDを買うまで時々見ていたのが、右のDVDで、「ヘンデル:オラトリオ《メサイア》(モーツァルト編曲版)」(指揮:ヘルムート・リリング、管弦楽:シュツットガルト・バッハ合唱団、合唱:ゲヒンゲン聖歌隊)(収録:エルヴァンゲン教区教会、シュツットガルト近郊)(Pioneer:PIBC 1093)です。このDVDはロングセラーで、なかなか廃盤にならないので、人気があるのでしょう。解説書によると、モーツァルトはヘンデルの声楽曲を4曲編曲しているようです。仮面劇《エーシスとガラテア》(1788)、オラトリオ《メサイア》(1789)、オラトリオ《アレグザンダーの饗宴》(1790)、合唱曲《聖セシリアの祝日のための頌歌》(1790)で、これらは全て、ウィーンの音楽愛好貴族、ゴットフリ-ド・ファン・スヴィーデン男爵(1730-1803)からの依頼だったようです。原曲版と比較すると管楽器が大幅に増えています。メサイアのモーツァルト版の初演は1789年3月6日で、ダブリン初演の約47年後です。ちなみにハレルヤコーラスはやはり英語で聞かないとドイツ語では雰囲気が出ないように思います。リリングのDVDを聴いて、すぐにホグウッドのDVDを聞きなおすと、ホグウッドの演奏の清廉さが魅力的に感じます。モーツァルトの編曲も悪くはないのですが、ホグウッドと比べると、神聖さが希薄で、編成が大きいだけにややゴチャゴチャした感じが否めません。
先月にこのブログで紹介した、へンデルの「オラトリオ《メサイア》(1742年ダブリン初演版)」(LINN CKD 285(2CDs))(ジョン・バット指揮、ダンディン・コンソート&プレーヤーズ)を聴いてから急にヘンデルへの興味が沸いてきました。昔からメサイヤは何度も聴いていたのに、特別興味が沸かなかったのですが、このCDをきっかけにヘンデルに目覚めたというか、良さがだんだん分かって来たのか、色々聴きたくなってきました(今頃になって、ちょっと遅いのですが....)。このメサイヤのCDは何回聴いても飽きがきません。いまだに景気付けに仕事が終わったら時々聞いています。そこで、以前に買っていた、「ヘンデル・オラトリオ《サウル》」(NAXOS 8.554361-63(3CDs))(指揮:ヨアヒム・カルロス・マルティニ、ユンゲ・カルトライ フランクフルト・バロック管弦楽団)(オリジナル楽器使用)を棚から探し出して再び聴いてみました。今回、聴き直して見ると、いかにもヘンデルらしく、以前より断然魅力的な曲に思いました。メサイヤの姉妹版というような感じで、第5曲のハレルヤ、第77曲の葬送行進曲、その他のすべてのシンフォニア、どれをとってもなかなか聴き応えがあります。今までヘンデルの祝祭的雰囲気はあまり好みではなかったのですが、彼の曲のスケールの大きさや、荘厳さの中にもそこはかとない明るさが漂っている所は、やはり魅力的で、また聴衆を意識したエンターテイメント的な所もあり、楽しく聴けます。また、色々なオラトリオを聴いてみようと思い始めています。
GLOSSAレーベル、ゲオルク・ベーム(1661-1733)の「ベーム 鍵盤のための組曲集」(GLOSSA GCD 921801)(2CDs)(チェンバロ:ミッツィ・メイヤーソン)(録音:2003年3月、ドイツ)を聴いてみました。ウィキペディアによると、≪ゲオルク・ベームは、ドイツ・チューリンゲン地方の有名な教会オルガニストで、一時期ハンブルグに勤めていた折り、ラインケンに学んだ可能性がある。その後ハノーファー宮廷のあるリューネブルクに移り、1698年に聖ヨハネ教会のオルガニストに就任、終生その地位にあった。専ら鍵盤楽器の作曲家として名を残しており、オルガンのための前奏曲とフーガや、チェンバロためのパルティータは、バッハに影響を与えた。≫とあります。神戸阪神地域芸術文化情報にベームの記載がありました。フランスのリュート音楽の影響が見られるとの記述もありました。私にはいかにもドイツ的で、質実(剛健)な印象がしますが、確かにフランス的な優雅な面もあるようにも思います。バロック時代のドイツは音楽的には後進国であったようですが、本来、バッハが出現するまでのドイツ音楽というものがどういう風なものであったのかはまだ勉強不足で全体像が把握出来ていないのですが、少なくともベームにはイタリア音楽の影響はないように感じます。歴史的には貴重な作品のように思います。
土日で福岡に出張してきました。どのホテルも満室で、3月と同じ、ハイアット・リージェンシー・福岡に宿泊しました。福岡には、グランド・ハイアットがあり、ハイアット・リージェンシーはハイアットグループの中ではランクは下のようですが、私の印象ではこの福岡のハイアット・リージェンシーは非常に好感が持てます。帝国やオオクラのような型にはまった対応ではなく(帝国ホテルは行く度に印象が悪くなっていきます......)、気さくで、心温まる接遇で、若いスタッフが皆でホテルを良くして行こうという雰囲気が肌に伝わってきます。町の繁華街からややはずれますが、JR博多駅より徒歩で数分で行けますし、福岡空港からタクシーでも千円ちょっとで行けます。是非、お勧めです。
和食の伴菜もお勧めです。ホテルの食事としてはあまり高くなく、家庭的で飽きがきません。三食(朝・昼・晩)とも食べてしまいました。スタッフのサービスも良く、気持ちよく食事が出来ました。
帰りは曇りがちで、飛行機からの眺めは今一でしたが、左から、大分県沖の瀬戸内海の島々、面白い雲、大分県の宇佐市です。