最近、オワゾリールからバッハのチェンバロ協奏曲の新譜が出ていました。「J.S.バッハ チェンバロ協奏曲集第2,4,5,1番」(UCCD 1218)(オッターヴィオ・ダントーネ指揮&チェンバロ、アッカーデーミア・ビザンティーナ)(録音:2007年3月31-4月4日、ラヴェンナ)です。
バッハのチェンバロ協奏曲は、個人的にはピアノで演奏する方がチェンバロのパートが良く聞き取れて、演奏者の解釈の違いも良く分かり、聴き応えもあり、ピアノ版が好きでしたが、最近は小編成で、録音も良く、チェンバロの響きが伴奏に掻き消されてしまわない魅力的なCDが沢山出てきています。
このCDも各パート独りずつで構成された小さな弦楽アンサンブルとチェンバロという編成で、チェンバロを含め、各パートの音がクリアで、澄んで聞こえます。ダントーネの演奏は、とにかく丁寧で、キッチリとしています。最近録音されたチェンバロ協奏曲の演奏スピードは以前の録音より速くなっている傾向があるように思いますが、ダントーネの演奏はテンポがややゆっくりしており、スピード感や気迫にやや欠けるように思います。好みにもよると思いますが、何となく模範的な、教科書的な演奏で、個性的な演奏には感じませんでした。ただ、すっきりとした爽やかで明解な演奏です。収録曲の中では、最後の第1番の協奏曲がスピード感もあり、彫も深く、メリハリもあり、最も魅力的な演奏と思いました。
最近、少し涼しくなってきましたが、色々な法改正の対応に追われて、まだまだ年内は忙しい状況が続きそうです。
ドイツ・ハルモニア・ムンディ創立50周年記念シリーズの1つである「ゼレンカ:エレミアの哀歌(全曲)」(BMG:BVCD 38203)(ルネ・ヤーコプス指揮、バーゼル・スコラ・カントールム器楽合奏団)(録音:1982年11月22-27日、カントン・ソロトゥルン州、ゼーウェン教会、スイス)を聞いてみました。ゼレンカについては、1972年にアルヒーフで初録音した「6つのトリオ・ソナタ」(POCC-1058/9)を聞いてから、バッハに次ぐお気に入りの作曲家になっています。とは言っても、あまり国内では発売されていないので、CDはわずか3枚しか持っていません....。
この曲の詳細およびゼレンカの生涯については、解説書に磯山雅氏が解り易く書かれておりますので省略しますが、ゼレンカの晩年がバッハと同じような境遇で、生前に周囲から高い評価が得られなかったのは非常に残念です。この「悲しみの哀歌」は、厳粛で、敬虔で、心にジワッと染み入り、気持ちが落ち着きます。バッハの教会カンタータを彷彿させる所がありますが、また違った魅力があり、新鮮に感じました。磯山氏による解説には、『バロック時代におけるカトリック教会音楽の、最高の成果のひとつ』と記載されています。益々、ゼレンカの曲が聞きたくなってきました。
以前には興味が殆どなかったヘンデルの音楽ですが、最近はボチボチ聞いています。バッハとヘンデルの音楽は根本的に違うと思うのですが、バッハがヘンデルの音楽をどう評価していたのか、以前から常々知りたいと思っています(何か文献でも残っているのでしょうか...)。バッハとヘンデルが会うチャンスは2回あったようですが、結局、生涯2人が会えなかったとされていますが、2人が会って音楽的交流があったら2人の音楽も少し変化していたのかなぁと想像しております。また、ヘンデルは、メサイアの興行が失敗したらドイツに帰るつもりだったようで、メサイアが失敗していたら、ヘンデルのその後のドイツでの音楽活動がどうなっていたのかも興味があります。
今回のCDは、「ヘンデル:オラトリオ「トビト」」(NAXOS:8.570113-4)(ヨアヒム・カルロス・マルティニ指揮、ユンゲ・カントライ フランクフルト・バロック管弦楽団(オリジナル楽器使用))(ライブ録音:2001年6月、エーベルバッハ修道院、ドイツ)です。この曲の詳細は、解説書に任せるとして(外国語なので)、副題に《素材の勝利!、偉大なるパッチワーク》とあります。カバーについている簡単な日本語解説を引用させて頂きますと、この曲は純粋なヘンデル作品ではありません。ヘンデルに仕えた写譜屋を父に持ち、自らもヘンデルに鍵盤楽器を師事したスミスという人物(John Christopher Smith (1712-1795))が、題材を聖書の世界に求め、ヘンデルのオペラ、オラトリオなどを継ぎはぎし、さらに自作も加えた、いわゆるパッチワーク的作品のようです。内容は「敬虔なユダヤ人で盲目のトビトが視力を回復し、息子のトビアスが無事にサラと結婚出来るまでの物語」だそうです。解説書の最後に、スミス氏が作曲した部分が記載された一覧がありますが(曲全体の3~4分の1位でしょうか)、それを見なければヘンデルが作曲した部分との違いが分からないほど違和感はありません。そのまま聞いていて自然とヘンデルの世界に入れ、楽しく聞けました。
最近は、忙しい日々が続いており、CDは何とか聞き続けているものの、なかなかブログ更新の時間が取れない状況が続いています。
今回、連休でやっと少し時間がとれたので、CDショップへ行った所、私がお気に入りのヘンゲルブロック指揮の新譜が出ていたので思わず買ってしまいました。これは買って超!正解でした。「ヘンデル:ディキシット・ドミヌス&カルダーラ:悲しみのミサ曲」(BMG:BVCD 31018)(トーマス・ヘンゲルブロック指揮、バルタザール=ノイマン合唱団&アンサンブル)(録音:2003年3月10-14日、バーデン=バーデン、フェストシュピールハウス、ドイツ)です。
ゲルハルト・ホッペの解説によれば、ヘンデルの『ディキシット・ドミヌス(主は、わが主に言いたまいぬ)』は、ヘンデルがイタリア滞在中の1707年(22歳)に作曲されており、ヴェネツィア時代の音楽を手本として作曲されたと推測されています。とにかく聞いてみて、ヘンデルの若いエネルギーに圧倒されます。曲に勢いがあり、迫力に満ちており、また、多彩な表現力はヘンデルの天才さを再認識させられました。誰の作品か知らずに聞いたら、おそらくヘンデルの曲とはすぐには推測出来ないのではないでしょうか。
アントニオ・ガルダーラ(c1670-1736)は今回初めて聞きました。ヴェネツィアでヴァイオリンとテオルボの奏者の息子として生まれ、存命中にはヨーロッパにおける最も高名な作曲家の一人として見なされていたようで、作品の数は3400を超えるとされています。このCDには、『悲しみのミサ曲(ミサ・ドロローサ)(4声)』と『クルチフィクス「十字架につけられ」(16声)』の2曲が収められています。ゼレンカと同様に、大バッハにも劣らない凄い作品と思いました。今までに聞いたことの無いような不思議な感覚で、神聖、荘厳さの中にもイタリアの陽気さが漂い、しかも新鮮で活気に満ちており、思わず聞き入ってしまいました。ガルダーラの曲を聞いて久しぶりに深い感動を覚えました。『クルチフィクス「十字架につけられ」(16声)』は、大バッハのロ短調ミサ曲を彷彿とさせますが、それ以上の魅力を感じました。
このCDはバロックファンであれば感動すること請け合いの名盤と思います。ヘンデルの若き日の作品、ガルダーラの作品群をもっともっと聴いてみたいと思ってしまいました。