harmonia mundiから発売されている「J・S・バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ」(HMC-902059)を聴いてみました。演奏は、ヴァイオリン:イザベル・ファウスト(録音:2009.9、テルデックス・スタジオ、ベルリン)です。
ジャケットも素敵で、ヴァイオリンの弓が弓道の矢のように見えて、服装、背景も和風の雰囲気が漂っています。
彼女は1972年、ドイツ生まれで、1987年にレオポルド・モーツァルト・コンクールで優勝し、1993年にパガニーニ国際ヴァイオリンコンクールで優勝しています。2004年からベルリン芸術大学、ヴァイオリン専攻科の教授をつとめています。
彼女の無伴奏を聞いていると、自然にすぅーっと曲に入り込んでいき、思わず聴き入ってしまっている自分に気が付きます。増田良介氏の解説にあるように、パルティータを本来の舞曲としての性格を重視し、早めのテンポで軽快に弾いています。従来のシャコンヌは重々しく厳格に弾いているディスクが多いのですが、シャコンヌは元々は三拍子の緩やかな舞曲という形式の名前です。彼女ほどシャコンヌを三拍子という舞曲の律動性を意識している演奏は他にはないようです。また、彼女はハーモニーとポリフォニーを把握し、それを聴こえるようにすることを大事にしているようですが、まさしくそれを実践しているように思います。
ファウストの演奏は、本来の舞曲の性格を取り戻した、自然で軽快で居心地が良く、何度聴きたくなる気持ちのいい演奏です。他の演奏家にはない新たな無伴奏へのアプローチで、無伴奏の奥深さがまた再認識できました。個人的には今までの無伴奏のディスクの中ではベストと思います。。
Hyperionから発売されている「バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータ(全曲)」(CDA-67691/2)を聴いてみました。演奏は、ヴァイオリン:アリーナ・イブラギモヴァ(録音:2008.12~2009.2、ヘンリー・ウッド・ホール、ロンドン)です。レコード芸術準特選です。
イブラギモヴァという名前はなかなか覚えにくいのですが、写真から見て、彼女の風貌は一匹狼的で、孤高の謎めいた女性といった感じです。ジャケットの感じも無伴奏の雰囲気に合っており、思わず買ってみようと思わせる装丁です。
彼女は1985年、ロシア生まれで、グネーシン音楽院(モスクワ)を経て、メニューイン音楽学校(イギリス)、王立音楽院(ロンドン)で研鑽を積んでいます。バロック・バイオリンも学んでいるようですが、古典派、ロマン派、近現代音楽など、幅広いレパートリーを持っているようです。
このディスクは、モダン・ヴァイオリンでピリオド奏法のセオリーで演奏しているようです。ピリオド奏法とはヴィブラートをなるべく控えることのようですが、バイオリンの演奏法についてはよく分かりません。昨年1月のレコ芸(矢澤孝樹著)では、「彼女のヴィブラートへの禁欲ぶりは、近年モダン化傾向にあるピリオド楽器奏者たちより、いっそう徹底している。」、「彼女は"ノン・ヴィブラートの歌"というかつてない世界を私たちの前にくり広げている。」と評されています。
聴き始めて最初の印象は、冬の寒い大地の澄みきった空間の中に繊細でやや悲しげな感じがするものの、引き締まった音が情感豊かに響いている、といった感じです。ハーンの無伴奏が前面に音を押し出した分かり易い演奏であるのとは対照的に感じます。堅苦しくなく自然な演奏のように思いますが、やや線が細く聞き手からやや距離があるように感じるところがあります。素人的にはもう少し距離感が近い方が迫力がでるのではないかと思います。
イブラギモヴァの演奏は、派手でなく気負いのないストイックな演奏で、澄みきった引き締まった音の中に豊かな叙情を湛えており、聞き手を惹きつけます。今までの演奏にはない、新たな無伴奏へのアプローチと思いました。
MEISTER MUSICから、「シャコンヌ~J・S・バッハ作品集~」(MM-2101)が発売されています。演奏は、ギター:福田進一(録音:2011.2.1-2、神奈川)です。レコード芸術特選版にもなっています。収録曲は、①シャコンヌニ短調、②組曲ト長調(原曲:無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調BWV1009)、③組曲二長調(原曲:無伴奏チェロ組曲第6番 二長調 BWV1012)の3曲です。
福田進一さんは1955年大阪生まれで、12歳より故斎藤達也氏に師事、21歳で渡欧しています。1981年パリ国際ギター・コンクールで優勝し、その後、日本を代表する名手として活躍しています。
今までギターにはあまり思い入れがなく、バッハの作品のギター演奏はあまり多く聴いていませんでした。このディスクも軽い気持ちで何となく店頭で買ってみて聞き始めましたが、これが凄かったです!。思わず何回もリピートして聴き入ってしまいました!。
言葉で表現するのは難しいのですが、ギターの柔らかい繊細な音色により、これらの組曲の魅力が最大限に引き出されていると感じました。チェロで聴く原曲より遥かに魅力的であり、後で無伴奏チェロ組曲を聴きなおしてみて、また改めてこの曲の美しさを実感できました。
福田進一さんのギターによる編曲・演奏はバッハ自身さえも気付かなかった組曲の魅力を引き出しているのではないかと感じさせるほど素晴らしいと思いました。