(実在する人物だけれど、登場人物の名前は仮名です)
今住んでいるところは、エージェントが管理するアパートで、エージェントのオフィスの真上。スタジオも隣接されているところなので、スタジオを使って練習したい時はもちろん便利だし、エージェントやオフィスの人に話や用事があればすぐにオフィスにも行ける。
前のエントリーでも事情を説明しましたが、マリの契約の件で長いこと返事を待ち続け、その間何度かオフィスにその件の進み具合を聞きに行ったある日の出来事。
いつも通り、閉まっているオフィスの玄関の扉を開けてもらうよう、チャイムを鳴らすと掃除のおばさんメルテがドアを開けてくれる。
キーフィック、インティ(レバニーズアラビア語でHow are you?)。
と、「ドアを開ける」という一仕事をこなしたメルテは、タバコを吸いながらちょっと渋い顔をし、スリッパをパタパタ言わせながらキッチン(給湯室?)に向かう。日本なら、タバコを吸いながら仕事するおばさん?ってな時点でちょっとおかしいよね、多分。
オフィスに入るとすぐ右手前方にはL字型になった背の高いカウンター。その向こうで座っている、見え隠れする頭のてっぺん。
最近ドバイから帰ってきたオフィスのスタッフのロランは、きちんとした部屋が割り当てられないからなのか(確かにオフィスに4つある部屋は全部埋まっているけど)、ここのオフィスに戻ってきてからこの微妙な席に配置されていて、カウンターの向こう側に席を陣取り、見え隠れする頭の持ち主がその彼。
Hi Loran. Kifak? (ロラン、元気?)
と言った声の主を見るために頭を上げたロラン。私を見るなり彼、Shoo Mariko, what is new about your work?(どうしたのマリコ、マリの契約の件どうなったー?)
・・・って
テメエが知ってろ!
私はマリの件が知りたくてここにやって来たのよ。私が聞くべき質問をどうしてあなたが聞いてくれるかな、私に。
私のエージェンシーは、職業柄、普通のオフィスの雰囲気とは多分違うのだろうけど、とってもリラックスした雰囲気。
誰か別の人が知ってるかもしれないと淡い期待を抱きつつ、2人目に会ったスタッフのサラに聞こうとしたその時・・・
マリの件、どうなった?とサラ。
私に聞くなー!!!
別の部屋に行くと、パソコンの画面とにらめっこしているナハラおばちゃんを見かける。おばちゃん、私を見かけるなり手招きしてパソコンの画面を覗かせる。
こういうメールが来てるのよ、ハッラ(Now)、私が印刷してエージェントに見せるわね。といいつつおばちゃん、ちょっと顔こわばってきてない?どうしたの?と尋ねてみるとおばちゃんこう言う。It's not printing habibi(プリントできないのよ、ハビービ)。
プリンターのスイッチをつけたり消したり、おばちゃんそれでもプリントできないみたい。
ハッラ(Now)、私このメールを手書きにしてエージェントに見せるわ。
・・・って、
えぇ!!!手書きにするんかい!!!!!
そう言ってその部屋を去って別の部屋に行ってしまったおばちゃん。
残された私は、プリント出来ないはずがない、と、プリンターとパソコン両方を色々いじってみる。紙の位置をちょっと変えてみたらほら、やっぱりプリントできた。
それをおばちゃんに持って行こうと思ったけれど、おばちゃん外の人の来客中。しばらく待っていると、来客中のおばちゃんの声は騒がしさを増し、太鼓を叩くような音で、マクスームのリズム(エジプシャンリズムを語る上での基礎リズム)が聞こえてくる。何事かと思っていると、おばちゃん、どこから持ってきたのか洗面器を逆さにしてそれを太鼓替わりに叩いては歌い、そして飛び跳ねながら部屋から出てくる。
どうしたの?と訊ねたら、
頼んでいたCDやDVDが1ヶ月経ってようやく届けられたのよ!
と、かなり興奮気味。
注文したものを持ってきたおじさん(来客)の周りを洗面器タブラ(太鼓)を叩きながら、引き続き飛び跳ね、踊り歌う。
CDやDVDをデリバリーするのに1ヶ月掛かるのもどうかと思うけど、おばちゃん・・・
仕事をしろ!仕事を!!
この一連のスタッフの行動に、私、提案してみようと思う。
私がオフィスの面倒を見ているからあなた達、代わりに踊っておいでよ。
と。