マキシム・プイサン神父「地獄(第二の死と云われる永遠の滅び)」『煉獄と地獄』岸和田天主会教会、1925年
42.誘惑から逃れるため、自ら火の中に飛び込んだ修道士
修道士の生活もこの迷想を全くふせぐに足らない、地獄に霊父も修道者も居る。その数は小数とは思わるるが、とにかく確かにいることはいる。世界を照す者でありながら如何にして地獄に落ちたかと云えば迷想という不幸の道を歩みたからである。
マルチニアと云う山修士は、二十五年の久しき修徳、進善、聖人の如く聖業を修めて居られたため、その名声は響き渡りて居った。
悪魔はマルチニア修士を罪悪におとし入れんと、一人の悪い婦人を使った。彼は恐ろしきこの危険に迫り容易なことではこの誘惑に打勝つことは出来ないと思い煩い居る内に、夢中になりてそこに積んであった薪木に火を放ち、その中に飛び込んだ。
しばらくして、火中より出で、厳しく、且つ強く我が身を戎め自問自答して「マルチニアよ、この火の中に居るは愉快ではあるか?もし、終りなき地獄の火に耐えることが出来得るなら、この婦人に従え、これ即ち地獄に行く道であるぞ」と云い終りて、再び火中に飛び込み又「天主に背くより、この火の中で死するが結構であるぞ、もしこの微々たる火の中で、数分間でも辛抱が出来ないなら、何うして地獄の猛火の中に、永遠に焼かるるを凌き得るぞ」と云った修士の剛勇、この火傷の治療まで十ケ月もかかりしとのことである。
悪婦人は之を見て深く感じ改心して修道院に入り、苦業十二年遂に美しき、幸福なる最後をもってこの世を去りたいという。真に心よりの望みすらあれば、如何なる誘惑にも天主の恩寵によりて、打勝つこと、確かに出来るというがわかる。