あまりにボロボロで、写真でお見せするのが恥ずかしいほどです。
ご推察の通り、何十回も読んだのです。
バッグに入れて持ち歩き、家の中であちこちに置きなおされ、
旅行にも連れて行きました。
作者のパトリシア・ハイスミスは、
映画「太陽がいっぱい」の原作者、
ヒッチコックの映画にも、「見知らぬ乗客」が採用されたミステリー作家です。
ミステリー作家になりたいと思っていたある時期、
ハイスミスは、私の脳天を打ったのです。
それまで、素朴に「ミステリーとはこのようなもの」と思っていた世界に、
なにか根本的な認識の転換をせまられたのです。
「心理サスペンス」というカテゴリーがはめられていますが 、
そのカテゴリーから洩れ落ちる「殺気」に、
私も、そのような作品を書きたいと思いました。
技術だけでないものが、たしかに彼女の世界を作り上げていて、
それがなにかわからなくて、
私は、キリスト教に興味を持ったのだと思います。
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この小説の原題は、
「A SUSPENSION OF MERCY」
ミステリー作家にはなれなかったけれど、自分もまた
「A SUSPENSION OF MERCY」の中にある
と知ったのは、私にとって、望外の祝福でした。