讃美歌103 ♪牧人ひつじを
今日ダビデの町で、
あなたがたのために救い主がお生まれになりました。
この方こそ主キリストです。
(ルカの福音書2章11節)
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晩年になって救われたさとうですが、教会に来てから、聖書劇に関わらせていただきました。クリスマスには降誕劇を毎年書くことになりました。救い主のご降誕を、いわば大筋は決まっているストーリーを、いかに印象的にドラマチックに劇にするかは、いつも薄氷を踏む体験でした。
イエスが処女からお生まれになった話、マリア・ヨセフはナザレの人なのに、ベツレヘムまで旅をして、その途中に産気づいたため、マリアは馬小屋でお産をした話。この誕生を、天使が野にいる羊飼いたちに知らせたので、羊飼いたちが馬小屋に訪ねてきた話。
救い主の誕生は、異国の天文学者の博士たちにも知らされていたこと。博士たちが星を見て、その場所を知り、はるばるとユダヤにやって来て、ヘロデの宮殿を訪ねたこと。ユダヤ人の王が生まれると聞いて仰天したヘロデが、二歳以下の男の子を皆殺しにするよう触れを出したこと。
博士たちから黄金。乳香、没薬のささげ物を受けたイエスの両親がイエスを連れてエジプトへ一時避難する美しい絵もおなじみです。
聖書に書かれていること、書かれていないことを峻別し、ふくらませる話、ふくらませてはいけない話、誤った読み込みを注意深く選別するのは、祈りを必要とする作業でした。
★★ ★★★
いろいろと限界がありました。劇には向かない小さな舞台、照明も劇用の音響設備もない「劇場」、素人の役者たち、何よりも脚本家が素人です。
演出家のYさんだけが、かつてプロの世界に身を置いて演出や主役を経験していた人でした。彼の劇づくりは本格的な手順を踏んだもので、発声、座ったままの本読みから、立ち稽古、演技の付け方、役者達の動き方まで、演劇とは無縁だったさとうには、驚くことばかりでした。当たり前のことですが、芸術のひとつとして演劇があるのですから、そこにしっかりした技術の蓄積があるわけですね。
文字に書かれただけの世界が、やがて立体的な三次元の世界、それ以上の異次元の世界に、私たちを連れて行ってくれるのです。
いつも、私は、恐れていました。
「神様。助けてください!」
すべてが終わった夜、全員の顔に、大きな喜びがあふれていました。だれ一人、「ドヤ」とか「やったー」顔の人はいませんでした。
Yさんは、いつも、気づかわしげに尋ねるのです。
「どうでしたか。みんなをほめてやってください」
Yさんは、昨年6月、急逝されました。今、劇ミッションは若い役者のMくんにゆだねられています。