「報告したいことがあります」
私はすっかりワクワクしていました。
「あら、素敵なお話だったら嬉しいわ。」
ちょっと待ってね。
電話口の彼女はそう言って
チューハイを一口流し込んだようです。
「新たな推しに出会いました。」
私はもう、彼女のちょっと待てを待てずに
続けざまにそう喋りました。
「あら、素敵な出会い。おめでとう。
それで、うみちゃんのお眼鏡にかなった、
素敵なメンズは誰かしら?」
彼女はそんな私を面白そうに茶化します。
私はもう我慢出来ずに口走りました。
「今更ですが、防弾少年団にハマりました。」
あら、あら、あら。
あら、あら、あら。
彼女は、あら、を何度も繰り返しながら
その間色んなことを考えていたようでした。
「オタクどっぷりなうみちゃんにしては
遅すぎるくらいの出会いじゃないかしら。」
ていうか、待って。
電話口の彼女はタバコを一口吸ってから
続けました。
「私の知っているうみちゃんは、
ヒップホップなメンズ達にはハマらないと思ってたんだけど。」
「そのヒップホップにやられました。」
あら、あら、あら。
あら、あら、あら。
「困ったわ、どうしましょう。
もう、あら、としか言えないわ。」
彼女はそう言って笑い出したかと
思えば一転、声色を変えて一言。
「誰を好きになったのか
当ててみせるから、まだ言わないで。」
どうやら、私たちの恒例のゲームが始まったようです。推しを当てるゲーム。
「ていうか、私にだって、
世界のBTSについては基礎知識はばっちりあるわよ。ていうか沢山観ている方よ。」
「でも、わからないわ。誰だか思いつかないわ。嫌だわ、私の愛しのうみちゃんの
好きなタイプがわからないなんて!!」
もう。こんなことって、、、
、、、苦痛だわ!!!
彼女はひとしきり
感情の変化を忠実に実況してくれた後、
「悔しいけれど、ヒントを頂けるかしら?」
と呟いたので、
「とても綺麗な方だと思います。」
そう返すと、
「そんなのヒントにならないわ!!
みんな綺麗な子達じゃないの!」
そう言って、またチューハイを
あおったようでした。
「ここで、初めて告白するんだけれど。
私もBTSには推しが存在するわ。願わくば。」
「願わくば?」
「うみちゃんと推しが被れば最高よね。」
私は色めきたちました。
確かにそうなったらどこまでも2人で、
オタクの高みに登っていけそうです。
「私、コンサートにも行ったわよ。
友達のお供でね。彼らは豆粒大にしか
見えなかったけれど。同じ空間にいる
という喜びは感じられたわ。」
彼女はその時の興奮が蘇ったようで
まくし立てて話しだしました。
「彼らと同じ空気を吸いたくて、
もう、小鼻思いっきり膨らませて
酸素を共有する幸せに浸りたかったんだけど。
残念ながら周りの女の子たちの香水の銘柄が
分かっただけだった。」
ふう。と彼女はそこで息継ぎをしました。
「今でも、その香水と同じ匂いを嗅ぐと
あの日の豆粒な推しを鮮明に思い出すわ。」
「もしかして
その香水の名前は、、、」
「あー、(笑)瑛人さんの
ドルチェ&ガッパーナじゃないわよ。
その歌が流行る前のお話よ。」
上手い話し運びになったわと
ひとしきり2人でゲラゲラ笑った後
私は続けました。
「私、姉さんの推しの子当てられます。」
「あら、あら、あら、いいわ。言ってみて。」
「〇〇ですよね。」
私は中性的な声と芸術的な踊りを
武器とするメンバーの名前を告げました。
きゃー!やだー!やだー!
どうして分かるのー?嬉しいわー!
電話口の彼女は叫びました。
こちらはスピーカーでの会話でしたので
私の耳は被害を免れたようです。
それと同時に正解してしまったことで
推しが同じというハッピーな可能性は
残念ながら無くなってしまいました。
彼女もなんとなく気づいたようでした。
うみちゃんは誰なのよ?
「うみちゃんマニアの私でも分からないなんて
そんなミステリアスなメンズは誰なの?」
(正解には語尾は誰なのぉぉ↑でした)
「シュガさんです。」
え?
「ミンユンギさんです。ラッパーの。」
(バチくそカッコいい写真を載せておきます)
え?え?
盲点だったわ!
「うみちゃんがラッパーに惹かれるなんて!
駄目よ!駄目!おかあさん、
結婚なんて許さないから!」
(正解には語尾は許さないからぁぁ↑でした)
「お母様、落ち着いて下さい。
うみはもう結婚しています。」
そんなやりとりで遊んでみた
ある夜のオタクたちでございました。
ふと思うことがある。
こうやって愛でる対象が存在している
お陰で私は潤い、日々過ごしている。
アイドルって本気で素晴らしい。