伊勢神宮を扱ったドキュメンタリーですが、神さまの話ではありません。
神宮の森(神宮宮域林)で営まれる命にスポットライトを当てた内容です。
一般に神社の境内は“神域”とされ、樹木の伐採は禁じられています。なので、伊勢神宮境内には樹齢600年の杉が林立しています。
伊勢神宮の森は世田谷区と同じ広さがあり、その中では2000年もの間、人の手が入らない原生林の営みが続いている奇跡の森なのです。
そんなわけで宮域林にしかいない動植物も存在し、名前の頭に「イセ」と付きます。
私が興味深く視聴したのは3つ。
1.サンコウチョウの子育て
サンコウチョウは美しい声で鳴き、オスは長い尾を入れると45cmもあるそうです。
春に飛来し、繁殖期を経て秋には子どもたちを連れて南の島へ帰って行きます。
私が住む北関東の里山にも生息し、バードウォッチャーが通い詰めています。
2.粘菌の生態
その昔、南方熊楠が研究した粘菌。植物ですが、1時間に数cm移動する能力があり、また胞子を飛ばして繁殖することもできる、不思議な生き物。その様子をずっと撮影したフィルムを早送りで見ることができました。貴重な体験です。
3.台風は森林再生のきっかけになる
台風による突風に耐えきれない老木は倒れてしまいます。すると、そこにポッカリ空間ができます。そのタイミングで、今まで光が届かなくて成長できなかった木々が育ちはじめ、数十年後には何事もなかったように森が再生されているのです。
倒れた老木はその生涯を終えたと思いきや、そうではありません。森の生き物たちのえさとなり、住処となって
貢献し続けるのです。
■ ワイルドライフ「伊勢神宮〜光降る悠久の森に命がめぐる」
(2016.5.17:NHK-BSプレミアム)
★初回放送は2013年
平成25年、20年に一度の“式年遷宮”を迎える伊勢神宮。神社の背後には、東京ドーム1200個分、世田谷区に相当する広さの森がある。神の鎮座から2000年。神宮の森の多くは、長い間、人の出入りを禁じ、守られてきた照葉樹林、原生の姿をとどめる神域の森だ。クスノキ、シイノキなどの巨木が空を覆い、光が届きにくい林床にはコケやシダが繁茂する。
その森に、光が差し込む不思議な空間が点在する。雨風などで倒れた巨木が周囲の木々を倒し、森に穴を開けたのだ。この“光の空間”は“命の循環”の舞台。倒木はシロアリやキノコなどによって分解され、その栄養を糧に若木が成長する。草が芽吹き、昆虫が集まり、ニホンジカなどの生き物も集まってくる。こうして力強く命が循環し、木々が若返る姿に、先人は神の力を感じてきた。“式年遷宮”は、20年に一度、神が新しい社に移り、宿る環境を若返らせる祭祀(さいし)。その原点とも言える営みが、照葉樹林にあるのだ。

今回、2年にわたる取材を許された。神宮の祭祀などを描いた番組は数々あるが、森の自然を長期にわたって撮影したのは初めてだ。“光の空間”で繰り広げられる“命の循環”を中心に、聖なる蝶(ちょう)・ミカドアゲハの誕生や清流・五十鈴川(いすずがわ)の水中、森を優雅に舞うサンコウチョウの子育て、森林性のホタル・ヒメボタルの大発光、倒木の上でキノコやバクテリアを食べて成長する粘菌など、最新の機材を駆使して、神秘的な命の営みと荘厳な神の森の素顔を描きだす。
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<フィールドリポート>
伊勢の神宮は、いつ訪れてもすがすがしい所です。巨樹に囲まれた境内には凛(りん)とした気が満ちています。今回の撮影の舞台は、内宮の背後に広がる「宮域林」と呼ばれる神宮の森でした。山の頂から初めて森を見たときは息をのみました。見渡すかぎり続く森は、自然林と式年遷宮のために育てているヒノキの森がほどよく調和しています。その森の広さが東京の世田谷区と同じと聞いてがく然。一般の立ち入りは制限されている森なので、どこにどんな生きものがいるのかもよくわかりません。どこから手をつけてよいのやら・・・。取材は正に手探りで始まりました。
試行錯誤しながらもいろいろな分野の専門家のアドバイスもあって、水辺と森ですみ分けている2種類のホタルや清流・五十鈴川(いすずがわ)の水中、サンコウチョウの子育て、不思議な粘菌の生活など、さまざまな生きものの暮らしぶりをかいま見ることができました。
森の中には時には危険もあります。マムシを踏みそうになったり、ハチに追われたり、ダニにたかられたり。ヤマビルにたっぷりと血を吸われたり・・・。それでも全く苦にならなかったのは、日々何に出会うかわからずにワクワクする、この森の魅力のおかげだったのだと思います。
今回はまた、生きものだけではなく、神宮に関わる人々も取材しましたが、それは大変興味深いものでした。神にささげる米や塩、織物などを1000年前の作り方そのままに今も行っているのです。世の中がどんなに変わろうとも日々粛々と続いている神宮の日常にただただ感心。私たちの日常とは異なる時の流れに心打たれました。
検索して知ったのですが、ゲンジボタル/ヒメボタル映像を撮影したのは動物写真家の小原玲さんのようですね。
神宮の森(神宮宮域林)で営まれる命にスポットライトを当てた内容です。
一般に神社の境内は“神域”とされ、樹木の伐採は禁じられています。なので、伊勢神宮境内には樹齢600年の杉が林立しています。
伊勢神宮の森は世田谷区と同じ広さがあり、その中では2000年もの間、人の手が入らない原生林の営みが続いている奇跡の森なのです。
そんなわけで宮域林にしかいない動植物も存在し、名前の頭に「イセ」と付きます。
私が興味深く視聴したのは3つ。
1.サンコウチョウの子育て
サンコウチョウは美しい声で鳴き、オスは長い尾を入れると45cmもあるそうです。
春に飛来し、繁殖期を経て秋には子どもたちを連れて南の島へ帰って行きます。
私が住む北関東の里山にも生息し、バードウォッチャーが通い詰めています。
2.粘菌の生態
その昔、南方熊楠が研究した粘菌。植物ですが、1時間に数cm移動する能力があり、また胞子を飛ばして繁殖することもできる、不思議な生き物。その様子をずっと撮影したフィルムを早送りで見ることができました。貴重な体験です。
3.台風は森林再生のきっかけになる
台風による突風に耐えきれない老木は倒れてしまいます。すると、そこにポッカリ空間ができます。そのタイミングで、今まで光が届かなくて成長できなかった木々が育ちはじめ、数十年後には何事もなかったように森が再生されているのです。
倒れた老木はその生涯を終えたと思いきや、そうではありません。森の生き物たちのえさとなり、住処となって
貢献し続けるのです。
■ ワイルドライフ「伊勢神宮〜光降る悠久の森に命がめぐる」
(2016.5.17:NHK-BSプレミアム)
★初回放送は2013年
平成25年、20年に一度の“式年遷宮”を迎える伊勢神宮。神社の背後には、東京ドーム1200個分、世田谷区に相当する広さの森がある。神の鎮座から2000年。神宮の森の多くは、長い間、人の出入りを禁じ、守られてきた照葉樹林、原生の姿をとどめる神域の森だ。クスノキ、シイノキなどの巨木が空を覆い、光が届きにくい林床にはコケやシダが繁茂する。
その森に、光が差し込む不思議な空間が点在する。雨風などで倒れた巨木が周囲の木々を倒し、森に穴を開けたのだ。この“光の空間”は“命の循環”の舞台。倒木はシロアリやキノコなどによって分解され、その栄養を糧に若木が成長する。草が芽吹き、昆虫が集まり、ニホンジカなどの生き物も集まってくる。こうして力強く命が循環し、木々が若返る姿に、先人は神の力を感じてきた。“式年遷宮”は、20年に一度、神が新しい社に移り、宿る環境を若返らせる祭祀(さいし)。その原点とも言える営みが、照葉樹林にあるのだ。

今回、2年にわたる取材を許された。神宮の祭祀などを描いた番組は数々あるが、森の自然を長期にわたって撮影したのは初めてだ。“光の空間”で繰り広げられる“命の循環”を中心に、聖なる蝶(ちょう)・ミカドアゲハの誕生や清流・五十鈴川(いすずがわ)の水中、森を優雅に舞うサンコウチョウの子育て、森林性のホタル・ヒメボタルの大発光、倒木の上でキノコやバクテリアを食べて成長する粘菌など、最新の機材を駆使して、神秘的な命の営みと荘厳な神の森の素顔を描きだす。
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<フィールドリポート>
伊勢の神宮は、いつ訪れてもすがすがしい所です。巨樹に囲まれた境内には凛(りん)とした気が満ちています。今回の撮影の舞台は、内宮の背後に広がる「宮域林」と呼ばれる神宮の森でした。山の頂から初めて森を見たときは息をのみました。見渡すかぎり続く森は、自然林と式年遷宮のために育てているヒノキの森がほどよく調和しています。その森の広さが東京の世田谷区と同じと聞いてがく然。一般の立ち入りは制限されている森なので、どこにどんな生きものがいるのかもよくわかりません。どこから手をつけてよいのやら・・・。取材は正に手探りで始まりました。
試行錯誤しながらもいろいろな分野の専門家のアドバイスもあって、水辺と森ですみ分けている2種類のホタルや清流・五十鈴川(いすずがわ)の水中、サンコウチョウの子育て、不思議な粘菌の生活など、さまざまな生きものの暮らしぶりをかいま見ることができました。
森の中には時には危険もあります。マムシを踏みそうになったり、ハチに追われたり、ダニにたかられたり。ヤマビルにたっぷりと血を吸われたり・・・。それでも全く苦にならなかったのは、日々何に出会うかわからずにワクワクする、この森の魅力のおかげだったのだと思います。
今回はまた、生きものだけではなく、神宮に関わる人々も取材しましたが、それは大変興味深いものでした。神にささげる米や塩、織物などを1000年前の作り方そのままに今も行っているのです。世の中がどんなに変わろうとも日々粛々と続いている神宮の日常にただただ感心。私たちの日常とは異なる時の流れに心打たれました。
検索して知ったのですが、ゲンジボタル/ヒメボタル映像を撮影したのは動物写真家の小原玲さんのようですね。