ツール・ド・フランス2024の3日目は歴史の扉を開けるステージになりました。エリトリアのスプリンター、ビニヤム・ギルマイがアフリカ系の黒人として初となるツールの勝利を手にしたのです。敢えてアフリカ系の黒人と記したのは、ツールで4度マイヨジョーヌを獲得しているクリス・フルームは南アフリカ出身の選手だったからです。ゴール前で大きな落車があり、フィリップセン等が不利を受けたこともありましたが、この勝利には誰もが驚いたと思います。
2022年のジロ・デ・イタリアで勝利を挙げ、トップスプリンターの仲間入りをしたギルマイですが、翌年に初出場したツールでは3位と勝利に迫ったものの、それ以降はなかなか勝ち星を重ねることはできずにいたのです。2度目の大舞台でようやくエーススプリンターに相応しい結果を手に入れることになったのです。
世界的には身体能力の高いアフリカ系の選手の活躍が目立っていますが、機材スポーツのサイクルロードレース界ではまだアフリカ系の選手が圧倒的に少ないのが実情です。UCIも来年の世界選手権をアフリカのルワンダで開催することを決めている中でのギルマイの勝利となった訳です。他国籍の選手が集うUCIワールドツアーには人種差別などは全くありませんでした。誰もが暖かくギルマイの勝利を祝福していたのですから。自然を相手にするサイクルロードレースの選手は人柄が良く、心豊かな人が多い気がしています。個人的にも日本のプロ選手を何人か知っていますが、皆一様に優しい人ばかりです。
この日はEFのカラパスが14位でゴールしタイム差無しの「全ステージの順位の合計が少ない」着順上位規定でエクアドル人として初めてのマイヨジョーヌ獲得となりました。東京オリンピックの金メダリストで金色のSupersix EVOに乗ったカラパスのマイヨジョーヌはcannondaleのバイクに乗っている私にはとても嬉しいことでした。昨年もエースとして期待されて参戦しながら前半の落車でリタイヤしていたので、カラパスもチームも喜びはひとしおだったことでしょう。
3日目の結果を受けて総合は1位カラパス、2位ポガチャル。3位エヴェネプール、4位ヴィンゲゴーまではタイム差無しという状況になっていました。総合上位勢は次の日のガリビエを見据えていたのでしょう。マイヨジョーヌを失ったポガチャルも特に気にした様子はありませんでした。
4日目にして標高2,642mの超級山岳のガリビエが登場し、いよいよ総合優勝争いが幕を開けます。逃げは出来たものの、ガリビエの手前からUAEが強烈な牽引で追走。登りに入ってもアダム・イェーツにジョアン・アルメイダとフアン・アユソが先頭でローテーションを回し、あっさり逃げを吸収。一方で、ヴィスマ・リースアバイクはマッテオ・ヨルゲンソンが遅れたことでヨナス・ヴィンゲゴーは単独となってしまいます。新型コロナウイルスからの回復が間に合わず、不出場となったセップ・クスの穴は大きく、ヴィンゲゴーには苦しい状況になっていました。
山頂まで1kmの地点で3枚のアシストを置き去りにアタックを開始したポガチャルに食らいつけたのはヴィンゲゴーのみ。そのヴィンゲゴーも山頂で8秒というタイム差を付けられてしまうのです。さらに、下りも攻めたポガチャルが2位のレムコに35秒、ポガチャルを追いかけたヴィンゲゴーは結局37秒遅れの5位と振るわず、総合争いでもレムコの後塵を拝することになってしまいました。
雪が残るガリビエの標高は2,642m。ポガチャルはその登坂記録を更新していたのです。ジロの山岳でも強さを見せていたポガチャルですが、ツールではここ2年続けてヴィンゲゴーに敗れていたのです。ただ、チームのアシスト強化とポガチャルの進化が改めて確認できるステージとなりました。
対するヴィンゲゴーはエースアシストのセップ・クスを欠き、加えて前日の落車の影響かヨルゲンソンまで遅れてしまったのは大きな誤算だったはずです。ボーナスタイムも含めポガチャルとのタイム差が50秒になってしまったのですから。レース後「このステージで2分差以上をつけられると思っていたので、50秒差は良い結果だ」と語ったヴィンゲゴーですが、正直3連覇は厳しいように私には見えました。
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