Ravel - Bolero (original version)
ボレロ(*)
つまさきを
刃物のように
研いでとがらせて
時速1メートルで
まえに身を乗り出して
堅固な壁のような
なにか重いしきたりの配下にある
邪悪をおしのけてゆく
微妙なその速度
それ以上でも以下でも成り立たない
慎重なチカラの球が
手足と顔立ちを
夕日のなかで
燃えたたせながら
いくたびも耐えながら
次々とクラヤミを
ほうりなげながら
何処までもそのチカラ
リズムのチカラを
バルコンの蔭と夕日と
やきつくような視線の束と
いくつもの意志をしたがえて
希望や理想など問わないで
飛び立つ赤々とした
燃え立つ羽の痕をのこす
鳥影となって
灼熱の茜空へとけてゆく
(*)モーリス・ラヴェル作曲のバレーのための曲
ミステリー
花がない
花がみつからない
どこに咲いているの
何時咲くの
なにも知らない
いちにちじゅう
あるきまわっている
意味がない
意味がみつからない
どんな意味があるの
何時わかるの
なにもわからない
社会という山壑
自然という原野
そこにある岩石
そこにある草木
いやそんな偉大なところではない
隣の家の軒の下
向かいの家の屋根の上
そういうところに
ひとが目もくれないところに
どっさりと
すがたをかくしている
そんな気がする
ひと時のなかの
妖怪