金子勝 @masaru_kaneko Oct 13, 2023
【コロナの教訓とは】倉持仁医師は民間医療機関で先頭で新型コロナウィルスに立ち向かってきた。早期発見早期治療の原則をないがしろにし、結果として国民皆保険制度を崩壊させた医療の進歩についていけない厚労省技官たちの犯罪性をきちんと総括すべきだ。
日本のコロナ対策 倉持仁院長に聞く(上) 皆保険制度「崩壊させた」 早期治療 ないがしろに
2023年10月12日 東京新聞
「コロナでは医療を受けられずに亡くなった人が大勢いた」と語る倉持院長
「一番問題なのは国民皆保険制度を崩壊させたこと」。地方のクリニックで、3万7千人の新型コロナウイルス感染症の患者を診療してきたインターパーク倉持呼吸器内科(宇都宮市)。院長の倉持仁医師(51)は政府の新型コロナウイルス対策をそう批判する。皆保険崩壊とは、肝心なときに診てもらえない患者が続出したことを指す。その真意を聞いた。 (杉谷剛)
-日本の新型コロナウイルス感染症対策の問題点を、どう考えますか。
コロナという新しい感染症に、昔からの体制や制度のみで対応しようとしたことです。重症患者だけを診ればいいという、本来の臨床医療から外れた対策であり、コロナ病床を作らずに、場当たり的な一般病床の転換作戦を変えなかった。
第1波や第2波の反省をせず、第3波以降、医療にかかれない患者があふれ、自宅で亡くなった方が多数いた。それにもかかわらず、緩んだとか、国民にお願いとか、「あなたたち、何を言っているんだ」という思いだった。医学的に意見を述べるべき専門家も政治的事情に巻き込まれ、妥協の産物を専門家の意見として出してしまった。
-新型コロナの治療の基本をどう考えますか。
当たり前ですが、早期検査・早期治療が大切です。当初、「PCR検査は不正確で不十分」などと、今となっては明らかなデマが、専門家といわれる人々の常識や医学的根拠になっていました。
コロナは早期に治療をすれば治る病気です。感染症治療は、ウイルスが体内で増殖し、いろいろな臓器障害が出る前に治療して進行を防ぐのが原則。それなのに、そんな「医療の当たり前」をないがしろにして、自宅療養やホテル療養が当たり前になった。熱と酸素飽和度だけを測って放置されているのは、医療上はあり得ないです。
パンデミック(世界的大流行)への備えを怠り、対応できないからといって、軽症者には医療は不要などという愚かな政策を場当たり的に行うのでは、健康被害は防げない。
特にデルタ株による第5波では、医療機関にたどりつけずに亡くなる人が続出した。重症化リスクは年齢や基礎疾患だけで、形式的に判断できるものではない。最初の診断をしっかり行い、そこで重症化する患者を見逃さないことが重要なんです。
バスを利用した新型コロナ接触者外来とインフル検査所=宇都宮市のインターパーク倉持呼吸器内科で
-著書などで、コロナで国民皆保険は崩壊したと指摘しています。
第6波のオミクロン株の流行後は感染者が爆増し、受診ができない状況が当たり前になりました。政府や自治体では苦肉の策として、症状のある人が自分で抗原検査をして、症状が軽ければ自宅で治るのを待ち、元気になったら活動を再開するという「発熱外来自己検査体制」になった。とんでもないことです。
軽症なら自宅にいればいいというのは、他の病気も含めて発見に遅れをきたし、治療の遅れは重症化の原因となる。コロナが深刻なのは後遺症がひどいことです。オミクロン株以降、医療から見捨てられた感染者が増えていることが、後遺症を悪化させているのではと心配です。
もともと国民皆保険制度は、保険料をきちんと払えばだれでも希望時に、速やかに受診できる制度のはずです。しかし、コロナは初期段階から、医療へのフリーアクセスや皆保険制度からはずれていました。医療者側も「軽症は対応していない」とか「重症は対応できない」となっていました。
-コロナ2年目以降もコロナ患者を診ない医療機関が多く、医療逼迫(ひっぱく)や崩壊の要因にもなりました。
厚労省はコロナ1年目の2020年3月、感染が疑われる患者の診療拒否は医師法上は認められないとしながら、「診療が困難である場合は、少なくとも帰国者・接触者外来や診療可能な医療機関への受診を勧奨すること」という玉虫色の通知を出し、コロナ疑いの患者は診なくてもよいという流れができました。
たとえ診療しても、かかりつけ患者に限定している医療機関も多かった。当初はマスクや防護服が不足していたが、その後は足りているし、換気や一般外来との区分けなどの感染対策も分かってきたのだから、本来はインフルエンザのように、一般外来で患者を診るようにすべきです。 (続きは10月19日に掲載)
日本のコロナ対策 倉持仁院長に聞く(下) 検査・診療 受ける権利を保障せよ
2023年10月19日 東京新聞
《前回は、政府の新型コロナウイルス感染症対策や、コロナ患者の診療拒否の問題点を指摘した》
「検査や診療を受ける権利を保障せよ」と訴える倉持院長
-日本医師会のコロナ対応に問題点はなかったでしょうか。
医師会にはコロナ診療を広く担うべき民間のクリニックをまとめる責任がありますが、当初からコロナ患者の受け入れに消極的でした。医師会は本来、患者サイドからの意見を積極的に発するべきでしたが、結果として風見鶏的な動きに終始してしまった感じです。存在意義が問われる面もあるかと思います。
-なぜ、診療拒否が多かったのでしょうか。
医師側は「自分はコロナが分からないから、責任を持って患者を診られない」という感覚が強いのでしょう。コストをかけて院内をつくり直すこともできず、今かかっている患者だけを診ればよいと思っていたのでしょう。新型コロナが一般的な感染症になってきた現状もあり、今後は変わらざるを得ないと思います。
国も感染対策が間に合わないなら診療しなくてもいいという診療拒否を認めたり、患者が多いから受診するな、軽症なら病院にくるな、という医療制限をすべきではありません。罰則も含めて原則診療を義務化することが必要でしょう。永続的な診療報酬や、公的な場所を使った臨時の医療供給体制、簡単に安く検査ができることなども必要です。
-政府の「診療の手引き」の問題点は。
わかりやすい手引きがあれば医療現場では助かる面もあるのですが、基本的に海外の論文を基に「これがエビデンス(根拠)だ」として作ったものだと思います。国なり関係する組織なりが力を集結して、データを集めて検証し、対策を取るという仕組みになっていない。オミクロン株になっても診療の手引きの重症度分類は変わりませんでした。それまでの基準で、軽症と判断されたら、体調が急変して亡くなる方を見逃してしまう。手引きは現場感覚とずれていました。
-第5波の最中、旧ツイッター(X)で「ここに至ってなお保身のみ執着するならば厚労省 医師会 存在意義ない」などと激しい批判をした真意を聞かせてください。
医師も厚生労働省も国民の健康と生命を守るために、ずっとやってきたという自負があると思います。それが本来の目的を忘れ、できないことの言い訳に終始しているように感じたので、強い発言をしました。良い方向へ変えていく努力と工夫が必要ですが、正しい現状認識ができていない状態を継続することは、とてもリスクがあります。
まず国が守るべき医療の最低ラインを法律で定めるべきです。感染したら検査を受けて医師の診療を受ける権利を保障する。そこから逆算して医療提供体制をつくればよいのです。 (聞き手・杉谷剛)
<くらもち・じん> 1972年宇都宮市生まれ。東京医科歯科大医学部卒。同大大学院、同大医学部付属病院を経て2015年にインターパーク倉持呼吸器内科院長。東京医科歯科大客員教授。コロナ問題の専門家としてテレビ出演多数。22年から佐藤佳・東京大医科学研究所教授らと共同で、科学雑誌「Nature」「Cell」「The Lancet」などにコロナの研究論文を複数発表。著書に「倉持仁のコロナ戦記」「日常を取り戻すために必要なこと コロナ戦記2」など。