かつて、歌は “3分間のドラマ”と言われていました。この歌と同じようにすべてのストリーを3分間以内に読破でき、読者に対して幸福や感動、笑いなどを与える短編小説があったとしたら・・・
この「日本一短い人間ドラマ文庫シリーズ」が、日本で初めてその作品づくりを現実に実現したものです。ぜひ、すべての作品がわずか3分間以内で読み切ることが出来る、さまざまな人間ドラマを描いた短編小説の数々をお楽しみください。
母が笑った。僕が笑った。
母が笑った。
僕が笑った。
そして、二人が笑った。
笑うたびに、入れ歯をはずした母の口の周りが、梅干のように皺だらけになる。
子供のように無邪気に笑う、母の笑顔に久しぶりに出会った。
母の無邪気に笑う顔を見ているうちに、人生の大半を歩き終えたこの人にとって、僕とこうして昔のように親子に戻って、語リ合っているこのひとときが、どんな高価な宝石よりも一番の宝物かもしれない・・・と思った。
つい先まで、そんな母の気持ちに気付かずに「今度来るときは、どんな土産がいい?」と尋ね「もう、何もいらないから、もっと会えるといいね・・・」と返事を返されて、そこにはハッとして母に向かって言った言葉に、心の中で後悔している僕がいた。
そんな母の気持ちに触れた瞬間、僕は、このまま時間が止まってくれればいいとさえ思った。
それは、年老いて灰色に濁った母の瞳の奥に光る泪に、電話で伝える何百回何千回の慰めや励ましの言葉よりも、一日でいい否わずかな時間でもいい、人生という名の列車から、独りぼっちで下車した母が、家族に戻るこのわずかなひとときを、最高の親孝行と感じていることを教えられたからである。
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息子
ピンポーン。
「あっ!はい」息子だ。
息子が帰ってきた。
どんな顔をして、どんな言葉を掛けてやろうか。
頭の中では、色んな想像を回らし、迎える準備をしていたつもりだった。それがいざ現実になると、つい慌てるだけでそう上手くいかないものである。
それもそのはずかもしれない。三年ぶりの再開だからだ。
僕が突然リストラされて職を失い、家族が一緒に暮らせなくなってから、もうはや三年の歳月が経っていた。
その間色々なことがあった。父が死んだ。
妻が病気(乳がん)になった。
家族が家族でなくなった。
僕は僕の非力さを恨んだ。
学歴を恨んだ。
社会を恨んだ。
それでも恨みたりずに、貧乏の家に生まれたことを恨んだ。
僕は泣いた。
暗闇の中で泣いた。
独りぼっちで泣いた。
それからすぐに、僕の周りから家族の温もりが消えた。
ガチャ。ドアを開けると、息子が立っていた。
十五歳になった息子が立っていた。
三年前には、百五十センチそこそこだった息子が、百七十センチ超える大男になって立っていた。
親子なのに、年月と時間の空白が、やはり心のどこかに壁を作るのだろうか。
最初は、三十センチもない距離の間にいるのに、二人とも声を掛けられずに、ただ黙って見つめ合っていた。
一分。二分。「ただいま」息子が、笑顔で言ったその一言が、年月と時間を飛び越えて、僕を父親に戻してくれた。僕は泣いた。
自分より大きくなった息子を、強く抱きしめて泣いた。ふと顔を上げたら、息子の目にも涙が光っていた。
―カキーン―
「かんぱ~い」
息子が笑ってる。
僕が笑ってる。
冷凍物の寿司と飲み物(ビールとジュース)で祝う、二千円足らずの歓迎会。
だけど、今の僕にとっては、これが精一杯。
「ごめんね」と、心の中で詫びる。
それでも息子が笑ってくれてる。
それでも息子が訪ねてくれた。
久しぶりに、僕に家族の温もりを届けてくれた、息子に感謝。親父と呼ぶようになり、一回り大きくなった息子に感謝。
弾む会話の最中に、「ここに、お母さんとお姉ちゃんがいたら、もっとよかったね」息子の口から何気なく出た言葉が、僕に父親としての責任を、いや人間としての責任を再認識させた。
その瞬間、この温もりを手に入れられるのなら、もう過去のプライドなんてどうでもいい思わせた。
息子が帰る。
まだ薄暗い、人気がない道を帰る。
リュックを背負って、一人で帰る。母と姉が待つ、家族のもとへ帰る。
父が欠けた、家族のもとへ帰る。
僕は黙って、その後姿を見てる。
声も掛けずに、ただ黙って見てる。
あっ、息子が振り向いた。
笑った。
手を振った。
僕も思わず、釣られるように笑った。
手を振った。
手を振りながら、本当の家族に戻れるのは、いつの日だろうと思った・・・・・
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当関連ブログ
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