おとぎのお家と青い鳥

本ブログでは、主に人間が本来持つべき愛や優しさ、温もり、友情、勇気などをエンターテイメントの世界を通じて訴えていきます。

新 青春うたものがたりシリーズ「風のある町」3/ A town with the wind

2013-03-04 19:21:41 | 人・愛・夢・運命・教育・家族・社会・希望

2013年の新年を迎え、すべての有名サイトでNO1に輝いた当ブログ人気作品─新青春うたものがたりシリーズ『風のある町』─が、Googleサイトにおいて約115,000,000 件中1位を獲得するという大快挙を成し遂げました。それを記念して新シリーズとして─新青春うたものがたりシリーズ『風のある町』─を 再スタートさせて頂くことにしました。前回の連載同様どうぞよろしくお願い致します。



ピアノ企画 / 下家 猪誠
作 / 猪 寿

第3話/ 愛の願い
~大空を飛んでみたい・・・~


◎前回のあらすじ

あ、愛ちゃんに会わせて下さい・・・」
「・・・・・」
大輝が必死で頼んでも、愛の母親百合子はなかなか首を縦に振らなかった。
おそらく、大輝の気持ちの中では愛の父親である泰三が許さないからだろうという、強い気持ちがあった。
しかし、本当の理由はそれだけではなかった。
それは、大輝が今の愛の本当の姿を見てしまうと、百合子の心の中に彼の気持ちにかなりの動揺が起こり、彼のこれまでの愛に対する気持ちが離れていってしまうのではないかという、母親としての大きな心配があったからである。
そして、もうひとつそれと同時に、今の愛の本当の姿を知ったとたん、大輝の彼女に対する愛情が薄れてしまい、彼女に対して冷めた態度をとられたらという、ちょっと百合子の心の中に考えすぎではないかと思うほどの、ひとつの怖さがあったからだった。
それでも、大輝はあまり乗り気ではない愛の母親である百合子を強引に口説いて、愛が入院している新宿の信濃町にある慶都病院に向かった。

―コンコン、コンコン、コンコン・・・―

そこで待っていたのは、かつてのように美しい黒髪姿の面影などはまったくない、白血病の治療の副作用のせいで髪の毛はすべて抜け落ち、頭にベージュ色のニットの帽子を被り、躰全体が拒食症患者のようにやせ衰えた愛だった。
突然の大輝の訪問に驚いた愛は、最初は照れくさそうにただ笑っているだけだったが、いつしか二人とも
“風のある町”
で一緒に暮らしていた頃のように心をひとつに取り戻すと、どちらからともなくお互いの肌の温もりを確かめるかのように近付いて来て、気付いたときには心身ともにひとつになって、しっかりとガラス越しに両手と両手を重ね合わせていた。
やがて愛の目には大粒の涙が溢れ出していた。
それは、大輝も同じだった。
二人は、ほんの数十センチという近い距離にいながら、ガラスの壁に阻まれて直接言葉が交わせないぶん、日記帳と大学ノートを使って会話をすることにした。

「また会えてよかったね・・・」
「ありがとう」
「どうして僕に、本当のことを教えてくれなかったの?」
「・・・・・」
大輝が書いたその言葉に、突然愛の表情が悲しそうになったので、彼はすぐに話題を変えた。
「早く君が元気になって、また二人で風の町に帰りたいね・・・」
「そうね・・・」
「いつまでも僕は、君が帰ってくるのを待っているからね・・・」
大輝が大学ノートにそう書いた台詞を見たとたん、また愛の目頭には薄っすらと涙が浮かんで来た。
「ごめん、変なこと書いちゃって・・・」
「ううん、大丈夫よ・・・」
二人の、日記帳と大学ノートを使った文字での会話は三十分ほども続いたが、やがて愛の担当看護師がやって来て、「もういいでしょう。これ以上、無理やり続けて、愛さんに何かあったらどうするんですか?」大輝に向かってそう言うと、半ば強引に二人の会話を打ち切らせた。
その担当看護師の言葉を聞いて、愛自身は自分は大丈夫だと強引に訴えたが、看護師が彼女の言葉を一切聞くことはなかった。
大輝の横にいて二人の会話のやり取りをずっと見守っていた百合子も、さすがにそう思ったのか?担当看護師の言葉に一切口出しをすることは無かった。
最後に、大輝が愛に今一番何がしたいか?尋ねると、彼女の口からは彼が予想もしていなかった言葉が飛び出した。
「大空を飛んでみたい・・・」
「大空!どうしてまた?」
「どうしても・・・」
「私の、最後の大輝に対する我侭だと思って、それを叶えてくれる・・・」
「ね、大輝いいでしょう・・・」
大輝とっては、まだ自分さえ飛んだことがない大空を飛ぶことなんて、とても自分の力で愛の夢を叶えてあげるのは無理なことだとは思ったが、でもあと半年間しかもたない愛の命のことを考えると、なんとしてでも彼は彼女の夢を叶えてあげたいと思った。
その日、大輝は愛からその言葉を最期に聞くと、百合子と一緒に彼女の病室を後にした。
大輝が愛に別れを告げて帰る時、一瞬後ろを振り返ると笑顔は見せているものの、彼女の目頭に薄っすらと涙が浮かび、「ありがとう・・・」という言葉を、ひと言ずつ口を大きく開いて一生懸命に伝えようとしている姿が見えた。
大輝は、自分が予想もしていなかった愛の言葉にすごく戸惑ったが、愛が生きていられる時間があと半年の間しかないと思うと、何とかして彼女の夢を叶えてやりたかった。
輝が、愛と再会を果たし風のある町に帰って来てから、月日が経つのは早いもので、もう一ヶ月近くになろうとしていた。
ただ大輝はその間、学校へ行っている時もアルバイトの行っている時も、片時も愛の「大空を飛んでみたい・・・」という夢を、絶対に叶えてあげたいということを忘れることはなかった。
しかし、残念なことに大輝のそう思う強い気持ちとは裏腹に、まったく未だにその名案は見つかっていなかった。
る日、大輝が偶然に町の本屋の前を通りかかった時に、彼の目に一冊の本が目に留まった。
それはスカイダイビングの本だった。
大輝は、「大空を飛んでみたい・・・」という、愛の夢を叶えてやるのは「これだ!」思い、その本を夢中で読み漁った。
ただ、大輝はスカイダイビングで誰かが飛んでいるのを、これまでテレビのバラエティ番組の罰ゲーム一などでしか見たことがなく、彼の意識の中でのスカイダイビングはそのスピードやスリル感を楽しむ、ある種レジャー楽しむための金持ちのひとつ遊びだというイメージが強かった。
が、その本を読んでいるうちに、実際のスカイダイビングはパラシュートの操縦技術を競い合う、世界各国で大会が行われているれっきととしたスポーツ競技の一種だということが分かった。
スカイダイビングで愛がいう大空の飛ぶのには、ハワイやグァムなどの世界各地の様々な場所でその体験が出来るようだったが、彼女の躰の体調のことを考えると、日本の中でその体験が出来る場所を探すしかなかった。
都合がいいことに、愛が入院している慶都病院からさほど距離的に遠くはない埼玉県の川島町に、TOKIOスカイダイビングクラブという、スカイダイビングが体験できる会社が見つかった。
ただ、大空を飛ぶ体験が出来るスカイダイビングのクラブが見つかったことで、愛の望みである“大空を飛んでみたい・・・” という願いは叶えてあげられそうになったが、それを実行に移すためにはふたつの大きな問題があった。
それは、入会費や会費、受講料が大輝と愛の二人分を合わせると、大学生の彼にとってはすぐには用意は出来ない、大金の五十万円ほどの費用がかかることと、いくら愛の「大空を飛んでみたい・・・」という夢を叶えてあげるためだといっても、おそらく彼女の家族や病院側がそれを許してくれないだろうという、現実の大きな壁があった。
大輝は、まずはその第一の問題である金のことを、「大学を卒業して働くようになったら、必ず返すから・・・」と言って、田舎の両親に電話して必死で頼んだが、父親に「お前は大学生の身分で、なんでそんな恥知らずなことをやっているんだ!それに家は、貧農家でお前を大学に行かせるだけで精一杯なんだぞ・・・」と、逆に大怒りされてあっさりと断られた。
そうなると、頼みの綱はもうひとつしか残っていなかった。
それは、愛が入院している病院に一緒に同行し、彼女が大輝に対して“私の、最後の我侭だと思って、その願いを叶えてくれる・・・”と、彼に頼んだことをその場で聞いていた、愛の母親の百合子に相談することだった。
大輝はそう決めると、すぐに風のある町を出て夜行列車に飛び乗り、愛の実家がある成城に向かった。
その時、愛に残された余命は、あとわずか四ヶ月あまりだった。


 
K

Kimiko Eva


プロフィールの紹介

楽 し い 通 訳 ☆ き み 子 で す

英国人と結婚して英国に住むようになり、
氣がついたら、もうすぐ30年になります。

会社内の翻訳・通訳を経てフリーになって7年。
臨時講師ですが大学で逐次・同時通訳も教えます。
国際会議、リサーチ、ビジネス、面白そうな仕事は何でもウェルカム。
最近はケンブリッジ大学のリサーチ機関とも御縁ができました。

モットーは、何でも楽しくやろう!です。
漫画とアニメ大好き、美味しい食べ物・ワインはモチロン大好き。

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