かつて、歌は “3分間のドラマ”と言われていました。この歌と同じようにすべてのストリーを3分間以内に読破でき、読者に対して幸福や感動、笑いなどを与える短編小説があったとしたら・・・
この「日本一短い人間ドラマ文庫シリーズ」が、日本で初めてその作品づくりを現実に実現したものです。ぜひ、すべての作品がわずか3分間以内で読み切ることが出来る、さまざまな人間ドラマを描いた短編小説の数々をお楽しみください。
こころ美人
こころ美人は、容姿も人柄も美しくなるというが、それは間違いかもしれないと思った。
その美語を、覆すような出来事に遭遇したからである。
彼女は、東大阪市に住んでいた。
実家は、代々雑貨問屋を営む、中流家庭だった。
婿養子の父親が、根っからの遊び人だったために、彼女が中学一年生のときに、実家は借金の肩代わりに人手に渡った。
彼女は、三人姉妹弟の長女だったこともあり、母親と一緒に家計を助けるために働いた。
コンビニの店員、食堂の皿洗い、喫茶店のウェイトレス。
金になれば、なんでもいいから働いた。
金になれば、どこでもいいから働いた。
人間(ひと)としてのプライドを捨てて、朝から夜まで働いた。
彼女は、苦労に負けなかった。
苦労をばねにして、働きながら高校大学と進学し卒業した。
その頃には、だいぶん借金も片付き、いちおう家の生活も落ち着きを取り戻していた。
ところが、彼女が社会に出て二年目に、タバコ好きの母親がビュルガー病(バージャー病)という、まったく聞いたことがない病名の難病にかかり、足を切断することになった。
そして、母親は足を切断すると同時に、一人では動けない身体になった。
彼女は、悩んだ。
誰よりも、母親が苦労しているのを知っているだけに、心の底から悩んだ。
姉妹弟の中でも人一倍、母親思いだっただけに、夜も眠れないほど悩んだ。
その結果、けっきょく彼女は会社を辞めて、母親の看病をすることを決心した。
その日から、彼女と母親の泣き笑いの、二人三脚の人生が始まった。
それから後ろを振り向くと、あっという間に十五年という歳月が過ぎ、ある日突然母親が亡くなった。
その瞬間、これまで彼女の肩に伸し掛かっていたすべての重荷が取れ、いつも決められた時間や場所でしか動けなかった、心の箍がポロリと外れた。
そのお陰で、彼女は母親が死ぬのと引き換えに、久しぶりに思う存分に心の開放感を味わえた。
彼女にとっては、死んだ母親には悪いが、それが何よりも贅沢なことだった。
母親の初七日が終わると、これまでに失っていた自分の自由の時間を取り戻そうと、飛び回るようにあっちこっちを遊びまわった。
だが、その喜びは長くは続かなかった。
しょせん、過ぎた時間は取り戻せない、一過性の心の開放感だった。
ふと周りを見渡すと、多くの友人や知人もそうだが、妹弟たちまでが結婚して温かい家庭を持ち、彼女一人だけがその輪の中から外れていた。
その見過ごしていた現実に、自分が直に触れた瞬間、急に彼女はこれまでに感じたことがない孤独感に襲われるようになり、自分の家族観のない惨め暮らぶりを悔んで、大きなショックを受けた。
そして、彼女は泣いた。
心から泣いた。
独りぼっちが寂しくて、大声で泣いた。
家族という温もりのない中に、独り取り残されたことが悔しくて、気が狂ったように泣いた。
その時、彼女はふと思った。
「私の人生って、いったい何だったのだろう・・・」
彼女は、今でも自分の人生の選択が、果たして正解だったのか?不正解だったのか?その答えが出せずに悩んでいる。
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当関連ブログ
OCNブログ「おとぎのお家」
http://wildboar.blog.ocn.ne.jp/blog/
アメーバーブログ「おとぎのお家と仲間たち」
http://ameblo.jp/phoenix720/
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