■晩年のベートーヴェンが涙しながら書いた至高の旋律
「自分がこれまで作曲してきた中で、最も感動的な楽章」
こう語ったというベートーヴェンは、涙しながらこの音楽を作曲したと伝えられます。
第九以降の後期弦楽四重奏曲である、第13番の第5楽章「カヴァティーナ」は、名旋律の多い
ベートーヴェンが書いた、最も美しいアダージョのひとつです。これに比肩するのはおそらく、
第九の第3楽章ぐらいでしょう。
「カヴァティーナ」でのベートーヴェンには、それまでのような闘いの姿はありません。
“苦悩を突き抜けて歓喜へ”といった激しい精神的な奮起や、自分との闘いといった世界を
越えた、別次元の心境を感じさせます。
交響曲では描いた理想や理念に徹したベートーヴェンですが、ここでは自らの胸のうちを
開いて見せているかのようです。
人生のすべてをあるがままに受け入れ、味わいかみ締めるような趣き。
そこには祈り、憧憬、希求、孤独、感謝、諦観といった矛盾するような様々な感情が、不思議な
統一感をもってひとつの音楽の中に集約されています。
苦難の多かったベートーヴェンが晩年にたどり着いた至高の境地です。
(クラシック名曲サウンドライブラリー)
●去年は今年より鮮やかだったそうだ。