●プーチンは誤算の繰り返し。短期決戦の頓挫とロシア軍への過信が、作戦の失敗と兵站の破綻を招いた。
<当初のプーチンの侵略目標>
推測だが
・首都キーウを短期間で攻略し、傀儡政権を樹立。ウクライナ軍への戦闘停止命令。ノボロシア一帯を割譲させロシア領と承認させる。
・東部方面、南部方面のロシア軍の進軍を短期間で被害を最小化して完遂。
・ウクライナの東部と南部、プーチンが主張する元々ウクライナの領土ではないノボロシア一帯(東から、ルハンシク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州、ムィコラーイウ州、オデッサ州)を軍事侵攻で占拠し、ロシアの共和国として承認併合する。
(帝政ロシアの妄想に狂うプーチン。大下容子ワイド!スクランブル2022.5.5)
プーチンの主張(2014.4国営放送「ロシア国民との対話」)によると、「ノボロシア(=ニューロシア)はロシア帝国時代、オスマン帝国から獲得した新たな領土であり、元々ウクライナ領土ではない」というもの。ご都合主義もいいとこで、いつの時代の領土・国境が正しいと各国が勝手に言い始めたら世界中が混乱する。
<要のキーウ攻略の失敗。短期決戦の前提が崩れる大誤算。だがプーチンはロシア軍の戦力でこのまま押せばノボロシア占領は可能と戦争継続を選択>
ロシア軍の大戦力、最新兵器で攻撃したらキーウはすぐ落とせると過信していたプーチン。補給も短期決戦用だった。そのことは戦闘が長期するにつれ明白になっていった。また隣国ウクライナはロシア国内にも親戚や血のつながりのある人々もいて、大昔のキエフ公国まで辿れば、ロシアと兄弟国である。だから2月24日の侵攻開始まで侵攻先がウクライナであることを兵士たちには知らせなかった。事前に知らせて侵攻までに時間がかかれば兵士の間に動揺や反発が広がるのを恐れたからである。
だが短期戦の補給量のまま長期戦への移行、納得しにくい侵攻目的、それを無視して戦争継続を決断したプーチン。兵站の重要性、部隊の士気の重要性を理解できていない。軍事を知らない元スパイの限界である。
またロシア兵にも、ウクライナはロシアに比べれば貧しい弱い国、というウクライナ国民を見下す偏見・プロパガンダによる思い込みがあったようだ。
虐殺のあったブチャから避難したキリル・サゾノフさんの証言によると「この軍事作戦は貧困にあえいでいるウクライナ国民を圧政キエフ政府から解放するものであり、諸君たちは解放軍として歓迎されるだろう」と侵攻開始直前の上官訓示があったのではないかという旨の推測をしている。
ところがブチャに侵攻してきたロシア兵は、各家庭に電子レンジやパソコン、洗濯機があることに激怒した!
「なぜこんな良い生活をしているのか!」嫉妬に狂ったロシア兵。本来は騙して戦場に送り込んだ上官や軍上層部に怒りをぶつけるべきだが、それができないので残虐行為、略奪、拷問、レイプなどの怒りのはけ口をウクライナ住民へ向けた。
ウクライナ軍への早期戦闘停止命令の下命見込みがなくなり、東南部方面への侵攻はウクライナ軍とロシア軍とのガチの正規戦となった。短期決戦の前提が崩れ、長期戦へ移行すると補給品の不足が表面化していく。軍規の乱れ、士気低下、厭戦気分が補給品の不足とともに前線の兵士に蔓延していった。
(ウクライナの方がいい生活をしていることに気づくロシア兵。報道特集2022.4.9)
(略奪行為は軍法会議で処罰されるハズだが、ロシア軍規は無統制。報道特集2022.4.9)
過去記事「ウクライナ危機PARTⅩ ロシアは分裂・内戦の可能性。・・」でも書いたように、ロシア人口約1億6千万人のうち、6人に1人は最低生活水準以下の暮らしをしている超格差社会。貧しい人たちの7割がロシア正教に入信して、ホームレスの人々は教会で食事を支給されているような状況である。
神頼みの必要のない一握りの人たちは、プーチンのプロパガンダが眉唾ものであることを見抜いているので、ロシアから国外に脱出できる。しかし大勢の貧しい人たちは、プロパガンダの是非を考える余裕はなく、また国外脱出のお金もない。圧政に苦しみ貧困にあえいでいるウクライナの同胞を救うために動員令に従い戦場に向かいなさいと、ロシア正教会のキリル総主教から説教されれば、それがプーチンのプロパガンダであっても総主教の言葉として従う。
「(戦闘)義務の遂行中に戦死したのであれば、それは尊い犠牲だ」
(プーチンの犬、キリル総主教。 ニュースウォッチ9 2022.9.27)
●兵站が破綻し始めている
<妻や母や娘からナプキンとタンポンを送ってもらえ!>
動員兵の訓練所で。
上官「自分の物は自分で用意しろ。軍服以外の必要なものは何もない。妻や母や娘に生理用ナプキンを頼むのだ。一番安いナプキンと一番安いタンポンだ。弾丸の傷にタンポンを押し込むと膨らむから」
まるで漫画のような光景が隠し撮りで流されている。
(止血帯の代わりにタンポンとは。 報道ステーション2022.9.28)
<食事も戦闘服も寝袋も水も、すべて不足していた。略奪品で腹を満たした> 仏に逃れてきたロシア空挺隊員の証言。
パベル・フィラティエフ氏34才。経済的な事情でロシア軍に入隊、第56親衛空挺襲撃隊の隊員だった。
侵攻の2月24日04:00頃、駐留していたクリミヤの訓練所から北の国境方面に移動、攻撃の目標、目的などは
知らされなかった。
侵攻途中で敵はNATOおよびNATO支援によるウクライナ側の攻撃が始まったと思ったという。そう教え込まれていたからだ。今では「明らかな、完全なウソであるとわかります」とパベル・フィラティエフ氏は証言した。
彼の部隊はヘルソンに派遣されたが、補給環境は酷かったという。
「最初から食事の問題が発生した。水、防寒着、寝袋も。とにかくすべてに問題があった。唯一足りていたものは弾薬だった。1か月後には、大半の戦闘服が使い物にならなくなった。しかし戦闘服は支給されなかった。土の上で寝ていると(戦闘服は)1か月で使い物にならなくなった」ここからも兵站準備が短期戦であったことが窺える。
(ロシア軍の酷い実態を証言する侵攻に参加したロシア空挺隊員。 TBS NEWS DIG2022.10.8)
<軍服150万着消失の怪事件。おそらくプーチン得意のフェイク。元々用意していなかったのでは>
招集兵用に用意していた軍服150万着が消えたという。
ロシア下院議員で元陸軍中将のアンドレイ・グルコフ氏のSNSによれば、
「どこに消えたか分からない。なぜこんな問題がおこるのか。誰も説明しようとしないのだ!」と激オコの投稿をした。
おかしいだろう。下院議員ではなく動員令をかけたプーチンこそが激怒して「犯人を捜しだせ!」と騒ぐハズだ。プーチンの信用に泥を塗るような事件だ。怪事件で済まされる簡単な問題ではない。大事件である。
元々用意などしていなかったものであったとすれば説明がつく。プーチンはウクライナを脅すために、30万人の動員令をかけ、すぐに招集し戦場に送れることを見せたが、動員兵には相応の装備品が必要であることに頭が回らなかったのだ。前にも書いたが、兵士を戦力化するには、士気、練度、食料、武器、弾薬が必要である。元スパイで軍事に疎いプーチンは兵士を大量動員して武器、弾薬を揃えればなんとかなるという頭だから、軍服が足りないという訓練所からのクレームを聞いて、150万着用意していたがなぜか消えたしまったという事件をデッチあげて非難をかわそうとしたのであろう。プーチンらしい姑息さが匂う。
(日刊ゲンダイDIGITAL2022.10.5)
兵士戦力化の5要素に、「食料」としたがもちろん象徴的な言い方だ。正確には食料を含む兵士用の補給品・装備品のことである。上記の不足例で挙がっているように、携行食料、医療キット、水筒、防寒着、寝袋も必要である。特に重要なのは防弾チョッキ、戦闘用ヘルメット、ヘルメットクッション(ハゲないように)、軍靴である。他にも弾帯、背嚢、雑嚢なども必要だ。
とにかく補給・兵站の重要性を理解していないプーチンは、誤算続きでいまやドツボにはまり始めている。
●兵站の破綻は、フロントライン(前線)の破綻。崩壊する前線兵士の銃口はどちらに向けられるか?軍かプーチンか。
どこの国の軍隊でも将兵は古今東西の戦闘・戦史を習う。何が勝敗を分けたかを研究・理解するためである。特に現代戦では短期間で大量の軍需品を消耗する。兵站を無視して遂行された旧日本軍のインパール作戦の失敗を挙げるまでもなく、兵站の重要性は現代の軍人なら理解している。
<プーチンは兵站を理解していない>
5月9日はロシアの戦勝記念日。キーウ攻略を諦め東部方面へ戦力を集中し始めた頃だった。一挙に戦況挽回のためウクライナに宣戦布告をして国家総動員令を発表するかと思われたが、誇れる戦果がなかったためか、これまでどおりのプロパガンダ、やむをえないウクライナ進攻を続けることを発表しただけだった。
翌5月10日、米上院議会の公聴会で、米の各情報機関、インテリジェンス・コミュニティーを統括するヘインズ国家情報長官が、ロシアの動向分析を説明した。
・プーチン大統領は長期戦に備えている。
・東部ドンバス地方の確保以上(ノボロシア確保)の達成が狙い。
・ドンバスへの戦力集中は、キーウ攻略失敗の主導権を取り戻すための一時的な動き。
・戦闘の長期化で戒厳令を出す可能性。
・核使用はロシア存亡の危機と感じた時。
また次の点も指摘した。(下記の画面参照)
・「自分の野心といまのロシアの軍事力とのズレに直面している」→現実のロシア軍戦力への過信。軍の実情を理解できていない。
・「ロシア軍が兵士の増員などをしなければ、オデーサから沿ドニエストル地方まで支配できない」→ノボロシア一帯の占領には現状の兵力では不足(動員令が必要)
(ニュースウォッチ9 2022.5.18)
だがこの時点でプーチンが短期戦から長期戦に切り替えたとしても、G4担当(兵站)の将軍に動員令に備え兵員用装備品を準備せよ、と命令したとは思えない。「私が(ロシアの)指導者でなければ国が崩壊する」と豪語するほどのプーチン独裁である。
(ナショナルジオグラフィックCH「FACING PUTIN:ライバルが暴く 真実と秘密」から)
誰も気を利かせて言われる前に装備品を増産・備蓄などはしない。余計なことはしないのだ。プーチンから直接命令されるまで待ちの姿勢である。その結果が下記の補給品不足の惨状となった。
・動員令をかけてすぐに猫も杓子もかき集めたが、あらゆる兵員用装備品が不足していることが露見した。
他の装備品も上記で説明した通りの酷い有様だ。
(支給されたボロボロに錆びたAK-47。報道ステーション2022.9.28)
・英国のGCHQ(政府通信本部。米のNSAと相当する情報機関)のフレミング長官も、10月11日のBBCラジオ4の番組で、ロシア軍の状況について「絶望的な状況が広がっている」と説明した。「兵員、武器、弾薬が不足しつつある」とも。
(GCHQフレミング長官。 ロイター2022.10.12)
(RUSI:英国王立防衛安全保障研究所。Royal United Services Institute for Defence and Security Studies)
●プーチンは逃亡先を探し始めたか
プーチンはウクライナ、G20、トルコのエルドアン大統領、イーロン・マスク氏など方々に和平交渉の打診をかけ始めている。弱気の表れだ。裏の意図は亡命先を探っているのかもしれない。もしそうなら、核は使用されないかもしれない。核のボタンを押せばもう後戻りはできない。だからまだ交渉の余地があるうちは、逃げ口は見つかる可能性がある。命が惜しくなった独裁者は、権力を手放しても各地に密かに隠していた巨額の金がある。いい条件の逃亡先を見つけ、妥当な交換条件(多少足元をみられても我慢する)で合意できる相手は見つかるだろう。
プーチンの逃げ出す気配を少しでも感じたら、強気の発言を繰り返してきたメドベージェフ安全保障会議副議長やペスコフ報道官、ラブロフ外相らも一転して浮足立つだろう。プーチンには逆らえなかった、仕方なかったと手のひら返しとなるか。ショイグ国防相や軍上層部の幹部も自分には責任はない、命令に従っただけだと言い出すかもしれない。
逆に獰猛なボルトニコフFSB長官やプリゴジン・ワグネル代表、チェチェンのカディロフ首長たちには、直下に強力な暴力装置を有しているので、弱気になったプーチンに取って代ろうとするかもしれない。
あるいは未知のダークホースが登場するのか?
分裂か内戦か。最終章が近づいているのかも。
<当初のプーチンの侵略目標>
推測だが
・首都キーウを短期間で攻略し、傀儡政権を樹立。ウクライナ軍への戦闘停止命令。ノボロシア一帯を割譲させロシア領と承認させる。
・東部方面、南部方面のロシア軍の進軍を短期間で被害を最小化して完遂。
・ウクライナの東部と南部、プーチンが主張する元々ウクライナの領土ではないノボロシア一帯(東から、ルハンシク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州、ムィコラーイウ州、オデッサ州)を軍事侵攻で占拠し、ロシアの共和国として承認併合する。
(帝政ロシアの妄想に狂うプーチン。大下容子ワイド!スクランブル2022.5.5)
プーチンの主張(2014.4国営放送「ロシア国民との対話」)によると、「ノボロシア(=ニューロシア)はロシア帝国時代、オスマン帝国から獲得した新たな領土であり、元々ウクライナ領土ではない」というもの。ご都合主義もいいとこで、いつの時代の領土・国境が正しいと各国が勝手に言い始めたら世界中が混乱する。
<要のキーウ攻略の失敗。短期決戦の前提が崩れる大誤算。だがプーチンはロシア軍の戦力でこのまま押せばノボロシア占領は可能と戦争継続を選択>
ロシア軍の大戦力、最新兵器で攻撃したらキーウはすぐ落とせると過信していたプーチン。補給も短期決戦用だった。そのことは戦闘が長期するにつれ明白になっていった。また隣国ウクライナはロシア国内にも親戚や血のつながりのある人々もいて、大昔のキエフ公国まで辿れば、ロシアと兄弟国である。だから2月24日の侵攻開始まで侵攻先がウクライナであることを兵士たちには知らせなかった。事前に知らせて侵攻までに時間がかかれば兵士の間に動揺や反発が広がるのを恐れたからである。
だが短期戦の補給量のまま長期戦への移行、納得しにくい侵攻目的、それを無視して戦争継続を決断したプーチン。兵站の重要性、部隊の士気の重要性を理解できていない。軍事を知らない元スパイの限界である。
またロシア兵にも、ウクライナはロシアに比べれば貧しい弱い国、というウクライナ国民を見下す偏見・プロパガンダによる思い込みがあったようだ。
虐殺のあったブチャから避難したキリル・サゾノフさんの証言によると「この軍事作戦は貧困にあえいでいるウクライナ国民を圧政キエフ政府から解放するものであり、諸君たちは解放軍として歓迎されるだろう」と侵攻開始直前の上官訓示があったのではないかという旨の推測をしている。
ところがブチャに侵攻してきたロシア兵は、各家庭に電子レンジやパソコン、洗濯機があることに激怒した!
「なぜこんな良い生活をしているのか!」嫉妬に狂ったロシア兵。本来は騙して戦場に送り込んだ上官や軍上層部に怒りをぶつけるべきだが、それができないので残虐行為、略奪、拷問、レイプなどの怒りのはけ口をウクライナ住民へ向けた。
ウクライナ軍への早期戦闘停止命令の下命見込みがなくなり、東南部方面への侵攻はウクライナ軍とロシア軍とのガチの正規戦となった。短期決戦の前提が崩れ、長期戦へ移行すると補給品の不足が表面化していく。軍規の乱れ、士気低下、厭戦気分が補給品の不足とともに前線の兵士に蔓延していった。
(ウクライナの方がいい生活をしていることに気づくロシア兵。報道特集2022.4.9)
(略奪行為は軍法会議で処罰されるハズだが、ロシア軍規は無統制。報道特集2022.4.9)
過去記事「ウクライナ危機PARTⅩ ロシアは分裂・内戦の可能性。・・」でも書いたように、ロシア人口約1億6千万人のうち、6人に1人は最低生活水準以下の暮らしをしている超格差社会。貧しい人たちの7割がロシア正教に入信して、ホームレスの人々は教会で食事を支給されているような状況である。
神頼みの必要のない一握りの人たちは、プーチンのプロパガンダが眉唾ものであることを見抜いているので、ロシアから国外に脱出できる。しかし大勢の貧しい人たちは、プロパガンダの是非を考える余裕はなく、また国外脱出のお金もない。圧政に苦しみ貧困にあえいでいるウクライナの同胞を救うために動員令に従い戦場に向かいなさいと、ロシア正教会のキリル総主教から説教されれば、それがプーチンのプロパガンダであっても総主教の言葉として従う。
「(戦闘)義務の遂行中に戦死したのであれば、それは尊い犠牲だ」
(プーチンの犬、キリル総主教。 ニュースウォッチ9 2022.9.27)
●兵站が破綻し始めている
<妻や母や娘からナプキンとタンポンを送ってもらえ!>
動員兵の訓練所で。
上官「自分の物は自分で用意しろ。軍服以外の必要なものは何もない。妻や母や娘に生理用ナプキンを頼むのだ。一番安いナプキンと一番安いタンポンだ。弾丸の傷にタンポンを押し込むと膨らむから」
まるで漫画のような光景が隠し撮りで流されている。
(止血帯の代わりにタンポンとは。 報道ステーション2022.9.28)
<食事も戦闘服も寝袋も水も、すべて不足していた。略奪品で腹を満たした> 仏に逃れてきたロシア空挺隊員の証言。
パベル・フィラティエフ氏34才。経済的な事情でロシア軍に入隊、第56親衛空挺襲撃隊の隊員だった。
侵攻の2月24日04:00頃、駐留していたクリミヤの訓練所から北の国境方面に移動、攻撃の目標、目的などは
知らされなかった。
侵攻途中で敵はNATOおよびNATO支援によるウクライナ側の攻撃が始まったと思ったという。そう教え込まれていたからだ。今では「明らかな、完全なウソであるとわかります」とパベル・フィラティエフ氏は証言した。
彼の部隊はヘルソンに派遣されたが、補給環境は酷かったという。
「最初から食事の問題が発生した。水、防寒着、寝袋も。とにかくすべてに問題があった。唯一足りていたものは弾薬だった。1か月後には、大半の戦闘服が使い物にならなくなった。しかし戦闘服は支給されなかった。土の上で寝ていると(戦闘服は)1か月で使い物にならなくなった」ここからも兵站準備が短期戦であったことが窺える。
(ロシア軍の酷い実態を証言する侵攻に参加したロシア空挺隊員。 TBS NEWS DIG2022.10.8)
<軍服150万着消失の怪事件。おそらくプーチン得意のフェイク。元々用意していなかったのでは>
招集兵用に用意していた軍服150万着が消えたという。
ロシア下院議員で元陸軍中将のアンドレイ・グルコフ氏のSNSによれば、
「どこに消えたか分からない。なぜこんな問題がおこるのか。誰も説明しようとしないのだ!」と激オコの投稿をした。
おかしいだろう。下院議員ではなく動員令をかけたプーチンこそが激怒して「犯人を捜しだせ!」と騒ぐハズだ。プーチンの信用に泥を塗るような事件だ。怪事件で済まされる簡単な問題ではない。大事件である。
元々用意などしていなかったものであったとすれば説明がつく。プーチンはウクライナを脅すために、30万人の動員令をかけ、すぐに招集し戦場に送れることを見せたが、動員兵には相応の装備品が必要であることに頭が回らなかったのだ。前にも書いたが、兵士を戦力化するには、士気、練度、食料、武器、弾薬が必要である。元スパイで軍事に疎いプーチンは兵士を大量動員して武器、弾薬を揃えればなんとかなるという頭だから、軍服が足りないという訓練所からのクレームを聞いて、150万着用意していたがなぜか消えたしまったという事件をデッチあげて非難をかわそうとしたのであろう。プーチンらしい姑息さが匂う。
(日刊ゲンダイDIGITAL2022.10.5)
兵士戦力化の5要素に、「食料」としたがもちろん象徴的な言い方だ。正確には食料を含む兵士用の補給品・装備品のことである。上記の不足例で挙がっているように、携行食料、医療キット、水筒、防寒着、寝袋も必要である。特に重要なのは防弾チョッキ、戦闘用ヘルメット、ヘルメットクッション(ハゲないように)、軍靴である。他にも弾帯、背嚢、雑嚢なども必要だ。
とにかく補給・兵站の重要性を理解していないプーチンは、誤算続きでいまやドツボにはまり始めている。
●兵站の破綻は、フロントライン(前線)の破綻。崩壊する前線兵士の銃口はどちらに向けられるか?軍かプーチンか。
どこの国の軍隊でも将兵は古今東西の戦闘・戦史を習う。何が勝敗を分けたかを研究・理解するためである。特に現代戦では短期間で大量の軍需品を消耗する。兵站を無視して遂行された旧日本軍のインパール作戦の失敗を挙げるまでもなく、兵站の重要性は現代の軍人なら理解している。
<プーチンは兵站を理解していない>
5月9日はロシアの戦勝記念日。キーウ攻略を諦め東部方面へ戦力を集中し始めた頃だった。一挙に戦況挽回のためウクライナに宣戦布告をして国家総動員令を発表するかと思われたが、誇れる戦果がなかったためか、これまでどおりのプロパガンダ、やむをえないウクライナ進攻を続けることを発表しただけだった。
翌5月10日、米上院議会の公聴会で、米の各情報機関、インテリジェンス・コミュニティーを統括するヘインズ国家情報長官が、ロシアの動向分析を説明した。
・プーチン大統領は長期戦に備えている。
・東部ドンバス地方の確保以上(ノボロシア確保)の達成が狙い。
・ドンバスへの戦力集中は、キーウ攻略失敗の主導権を取り戻すための一時的な動き。
・戦闘の長期化で戒厳令を出す可能性。
・核使用はロシア存亡の危機と感じた時。
また次の点も指摘した。(下記の画面参照)
・「自分の野心といまのロシアの軍事力とのズレに直面している」→現実のロシア軍戦力への過信。軍の実情を理解できていない。
・「ロシア軍が兵士の増員などをしなければ、オデーサから沿ドニエストル地方まで支配できない」→ノボロシア一帯の占領には現状の兵力では不足(動員令が必要)
(ニュースウォッチ9 2022.5.18)
だがこの時点でプーチンが短期戦から長期戦に切り替えたとしても、G4担当(兵站)の将軍に動員令に備え兵員用装備品を準備せよ、と命令したとは思えない。「私が(ロシアの)指導者でなければ国が崩壊する」と豪語するほどのプーチン独裁である。
(ナショナルジオグラフィックCH「FACING PUTIN:ライバルが暴く 真実と秘密」から)
誰も気を利かせて言われる前に装備品を増産・備蓄などはしない。余計なことはしないのだ。プーチンから直接命令されるまで待ちの姿勢である。その結果が下記の補給品不足の惨状となった。
・動員令をかけてすぐに猫も杓子もかき集めたが、あらゆる兵員用装備品が不足していることが露見した。
他の装備品も上記で説明した通りの酷い有様だ。
(支給されたボロボロに錆びたAK-47。報道ステーション2022.9.28)
・英国のGCHQ(政府通信本部。米のNSAと相当する情報機関)のフレミング長官も、10月11日のBBCラジオ4の番組で、ロシア軍の状況について「絶望的な状況が広がっている」と説明した。「兵員、武器、弾薬が不足しつつある」とも。
(GCHQフレミング長官。 ロイター2022.10.12)
(RUSI:英国王立防衛安全保障研究所。Royal United Services Institute for Defence and Security Studies)
●プーチンは逃亡先を探し始めたか
プーチンはウクライナ、G20、トルコのエルドアン大統領、イーロン・マスク氏など方々に和平交渉の打診をかけ始めている。弱気の表れだ。裏の意図は亡命先を探っているのかもしれない。もしそうなら、核は使用されないかもしれない。核のボタンを押せばもう後戻りはできない。だからまだ交渉の余地があるうちは、逃げ口は見つかる可能性がある。命が惜しくなった独裁者は、権力を手放しても各地に密かに隠していた巨額の金がある。いい条件の逃亡先を見つけ、妥当な交換条件(多少足元をみられても我慢する)で合意できる相手は見つかるだろう。
プーチンの逃げ出す気配を少しでも感じたら、強気の発言を繰り返してきたメドベージェフ安全保障会議副議長やペスコフ報道官、ラブロフ外相らも一転して浮足立つだろう。プーチンには逆らえなかった、仕方なかったと手のひら返しとなるか。ショイグ国防相や軍上層部の幹部も自分には責任はない、命令に従っただけだと言い出すかもしれない。
逆に獰猛なボルトニコフFSB長官やプリゴジン・ワグネル代表、チェチェンのカディロフ首長たちには、直下に強力な暴力装置を有しているので、弱気になったプーチンに取って代ろうとするかもしれない。
あるいは未知のダークホースが登場するのか?
分裂か内戦か。最終章が近づいているのかも。