その小さなスーツを買って以来、
Eさんは会社の食堂にも、寮の食堂にも来なくなった。
口にするのはわずかにコントレックスだけ、
さすがに心配になった友人は
ある日寮のEさんの部屋を訪ねた。
いつものように「Eちゃん いる?」と
部屋の戸を開けたところ
Eさんは食事の最中だった。
ハンガーにかけたシャネルのスーツを見ながら
彼女は部屋の隅に体操座りして
ゴミ箱を抱え、カロリーメイトの一切れを
舐めるようにして食べていた。
カロリーメイト一本が
その頃の彼女の一日分の食事だった。
「私、絶対痩せたいんですよぉ。」
ニコニコしながらEさんは言った。
決意を語るその目は、
狙った獲物を追い詰める目だった。
あまりの迫力に何も言えなかったと
遠い目をして友人は呟いた。
それからしばらく後
更衣室でEさんと一緒になったとき、
彼女は数え切れない数のフックのついた
補正下着を着けていた。
腰痛対策と言い張る彼女が
何だか見ていられなかった。
エステに通い、美顔器を買い、高級な化粧品を買って
彼女は自分自身を追い詰めていた。
漫画のようにもてる男に惚れてしまったために。
努力の甲斐あって彼女は劇的に痩せた。
一ヶ月の間に十数キロ体重を落とした彼女は
皆に、何よりMに痩せたねと言われ、有頂天だった。
しかしEさんはまだ若くて知らなかったのだ。
痩せれば誰でも
7号の服が着られる訳では無いということを。
(続)
Eさんは会社の食堂にも、寮の食堂にも来なくなった。
口にするのはわずかにコントレックスだけ、
さすがに心配になった友人は
ある日寮のEさんの部屋を訪ねた。
いつものように「Eちゃん いる?」と
部屋の戸を開けたところ
Eさんは食事の最中だった。
ハンガーにかけたシャネルのスーツを見ながら
彼女は部屋の隅に体操座りして
ゴミ箱を抱え、カロリーメイトの一切れを
舐めるようにして食べていた。
カロリーメイト一本が
その頃の彼女の一日分の食事だった。
「私、絶対痩せたいんですよぉ。」
ニコニコしながらEさんは言った。
決意を語るその目は、
狙った獲物を追い詰める目だった。
あまりの迫力に何も言えなかったと
遠い目をして友人は呟いた。
それからしばらく後
更衣室でEさんと一緒になったとき、
彼女は数え切れない数のフックのついた
補正下着を着けていた。
腰痛対策と言い張る彼女が
何だか見ていられなかった。
エステに通い、美顔器を買い、高級な化粧品を買って
彼女は自分自身を追い詰めていた。
漫画のようにもてる男に惚れてしまったために。
努力の甲斐あって彼女は劇的に痩せた。
一ヶ月の間に十数キロ体重を落とした彼女は
皆に、何よりMに痩せたねと言われ、有頂天だった。
しかしEさんはまだ若くて知らなかったのだ。
痩せれば誰でも
7号の服が着られる訳では無いということを。
(続)