転載:現場の声を聞く。
アフガンで難民診療に長年携わる医師、NGO「ペシャワール会」現地代表、中村哲氏
中村哲氏(なかむら・てつ)
「1946年福岡市生まれ。九州大学医学部卒。NGO「ペシャワール会」現地代表、PMS(ペシャワール会医療サービス)総院長。専門は神経内科(現地では内科・外科もこなす)。国内の診療所勤務を経て、1984年パキスタン北西辺境州の州都のペシャワールに赴任。ハンセン病を中心としたアフガン難民の診療に携わったのをきっかけに、井戸・水路工事による水源確保事業など現地での支援活動を続ける。
著書に『医者、用水路を拓く−−アフガンの大地から世界の虚構に挑む』(石風社)『アフガニスタンで考える−−国際貢献と憲法九条』(岩波ブックレット)など。」
・内政の問題:
「まず生きることです。
あとは、はっきり言って、タリバンが天下を取ろうが反タリバン政権になろうが、それはアフガンの内政問題なんですね。
そのスタンスさえ崩さなければ、我々を攻撃する連中なんかいませんよ。
それどころか、政府、反政府どちらの勢力も、我々を守ってくれるわけです。」
・何が嫌われるのか?:
「そうですね。アフガンの人たちは、親日感情がとても強いですしね。
それに、我々は宗教(イスラム教)というものを、大切にしてきましたから。
おおむね、狙われたのはイスラム教というものに無理解な活動、例えば、女性の権利を主張するための女性平等プログラムだとか。現地でそんなことをすると、まず女性が嫌がるんです。
キリスト教の宣教でやっているんじゃないか、と思われたりして。」
・対立感情を生み出すもの:
「いや、対立感情は、むしろ援助する側が持っているような気がしますね。
【優越感】を持っているわけですよ。ああいう【おくれた宗教、おくれた習慣を是正してやろう】という、僕から言わせれば【思い上がり、もっときつくいえば、“帝国主義的”】ですけどね。
そういうところの団体が、かなり襲撃されています。
民主主義を波及させるというお題目は正しいんでしょうけれど、やっていることは、ソ連がアフガン侵攻時に唱えていたことと五十歩百歩ですよ。」
・憲法9条の意味:
「それに僕はやっぱり、日本の憲法、ことに憲法9条というものの存在も大きいと思っています。ええ、9条です。
昨年、アフガニスタンの外務大臣が日本を訪問しましたね。
そのとき、彼が平和憲法に触れた発言をしていました。
アフガンの人たちみんなが、平和憲法やとりわけ9条について知っているわけではありません。
でも、外相は、
「日本にはそういう憲法がある。だから、アフガニスタンとしては、日本に軍事活動を期待しているわけではない。
日本は民生分野で平和的な活動を通じて、我々のために素晴らしい活動をしてくれると信じている」
というようなことを語っていたんですね。
そういうふうに、日本の平和的なイメージが非常な好印象を、アフガンの人たちに与えていることは事実です。
日本人だけは、別格なんですよ。」
・憲法9条の底力:
「ほんとうにそうなんです。僕は憲法9条なんて、特に意識したことはなかった。
でもね、向こうに行って、9条がバックボーンとして僕らの活動を支えていてくれる、これが我々を守ってきてくれたんだな、という実感がありますよ。
体で感じた想いですよ。
武器など絶対に使用しないで、平和を具現化する。
それが具体的な形として存在しているのが日本という国の平和憲法、9条ですよ。
それを、現地の人たちも分かってくれているんです。
だから、【政府側も反政府側も、タリバンだって我々には手を出さない。
むしろ、守ってくれているんです。
9条があるから、海外ではこれまで絶対に銃を撃たなかった日本。
それが、ほんとうの日本の強味なんですよ。」
・憲法9条のリアリティ「世界のどこにいても守ってくれるもの」:
「具体的に、リアルに、何よりも物理的に、僕らを守ってくれているものを、なんで手放す必要があるんでしょうか。
危険だと言われる地域で活動していると、その9条のありがたさをつくづく感じるんです。
日本は、その9条にのっとった行動をしてきた。
だから、アフガンでも中東でも、いまでも親近感を持たれている。