充電中に発火するなど、リチウムイオン電池を内蔵した製品の火災事故が相次いでいる。充電して繰り返し使える「エコ」な電池として普及したが、熱や衝撃に弱く、取り扱いに注意が必要なことがあまり認識されていない。誤った捨て方により、ごみ処理施設などでの火災事故も多発し、収集停止に陥る事態も起きている。
前年比1・4倍の事故
平成3年に世界で初めてソニーが量産化したリチウムイオン電池。軽量で高電圧が出せることから、スマートフォン、パソコン、掃除機、ワイヤレスイヤホンなど、さまざまな製品に内蔵されているほか、外出時の予備電源となるモバイルバッテリーに用いられている。
東京消防庁の発表によると、令和6年に発生したリチウムイオン電池が関連した火災は231件(速報値)となり、過去最多となった5年(167件)の約1・4倍に。平成26年(19件)と比べると約12倍に増えた。出火した製品を見ると、令和5年はモバイルバッテリーが最多で44件。次いでスマートフォン(17件)、電動アシスト付き自転車(14件)、コードレス掃除機(13件)となった。
同庁の担当者によると、モバイルバッテリーは充電中に発火したり、カバンの中に入れていたら出火したりしたケースも過去にあったという。
分別無視してごみから出火
ほかにも自治体のルールに従わず、可燃ごみに紛れて捨てられたリチウムイオン電池が原因とみられる火災が、ごみ収集車や処理施設で相次ぐ。環境省によると、4年度はこうした火災が1万6517件に上り、3年度(1万1140件)の約1・5倍となった。
その被害は大きい。今年1月、埼玉県川口市のごみ処理施設「朝日環境センター」で発生した火災は、可燃ごみに混入したリチウムイオン電池などから出火した可能性があるという。
消防車29台が出動し、鎮火に26時間以上かかった。その影響で市内のごみ回収を中断する事態となった。現在も稼働できておらず、外部委託費とごみクレーンの修繕費は今年3月末までだけでも14億円以上となる見込みだ。12月にセンターの一部再稼働を目指す。
リチウムイオン電池の捨て方は自治体により異なる。川口市の場合は、端子部分をビニールテープなどで絶縁し、「金属類」として出す。市の消防局予防課の担当者は「市民の共有財産となるごみ処理施設を守るためにも、リチウムイオン電池は一般(可燃)ごみに入れず、自治体のルールを守って捨ててほしい」と呼びかける。
落下の衝撃や高温、浸水もNG
リチウムイオン電池を原因とする発火がなぜ相次ぐのか。製品評価技術基盤機構(NITE)の宮川七重・製品安全広報課長によると、リチウムイオン電池には可燃性の電解液が使われているからだという。電池内では、リチウムイオンが電解液を介してプラス(正)極とマイナス(負)極を移動し、充電や放電を行う。
発煙や発火が起こる原因はいくつかあり、一つは、地面に落とすなどの衝撃が加わった際、正極と負極を隔てるセパレーターが破損してショート(短絡)してしまうこと。そのほかに、充電が終わっても充電をし続ける「過充電」が原因となったり、外から熱を与え続けることなどで電池内部の温度が異常上昇してしまって起こったりすることがある。
そのため、「ストーブなど暖房器具の近く、炎天下の車内、ポケットやカバンの中など、熱のこもる場所での使用や放置は控えてほしい」と注意を呼びかける。浸水でもショートして発火につながるリスクがあり、気温差による結露にも注意が必要だ。
また、価格の安い非純正の製品は、安全対策や品質管理が不十分な場合もあるとし、「信頼できる事業者の安全な製品を選ぶとともに、説明書を読んだ上で正しい使い方をすることが重要」としている。(本江希望) 産経新聞