満月と黒猫日記

わたくし黒猫ブランカのデカダン酔いしれた暮らしぶりのレポートです。白い壁に「墜天使」って書いたり書かなかったり。

『オケ老人!』

2009-01-18 15:07:29 | 

皆様ごきげんよう。またしても無為な週末を過ごして終わりそうな黒猫でございます。

まるっきり無為にしないためにも、今日は本の感想を。

『オケ老人!』(荒木源著、小学館)

数学教師の中島明彦は、転任に伴い引っ越してきた梅が岡で偶然市民オーケストラの演奏を耳にして、その素晴らしい技量に感動する。
自分も入団したいと思ったものの、パンフレットも何ももらってこなかったため、楽団名に「梅が岡」という名前がついていたという記憶を頼りにネット検索し、見つけ出した「梅が岡交響楽団」に電話連絡して入団希望の旨を伝えると、快く受け入れられた。
しかし翌日、練習に顔を出してみると、集まったメンバーは老人ばかり。しかもその技量はひどいもので、一度も曲を最後まで通せないほどだった。それもそのはず、実は明彦が演奏を聴いたオーケストラは「梅が岡フィルハーモニー」という別の団体だったのだ。しかもその梅フィルは、もとはといえば梅響から分離・独立したメンバーで形成されているとかで、ふたつの団体の間には何やらいわくがあるらしく、梅響の老人たちは梅フィルを敵視していた。

梅響を退団して梅フィルに入りなおそうと思う明彦だったが、コンサートマスターを務める野々村老人とその孫にして自分の生徒でもある和音に嵌められ、何故か梅響の練習を指導する羽目になり・・・?

というようなお話。


いやあ、面白かった。

わたしも学生の時オケのサークルにいたので、それも手伝って色々「あるある」と思うところがあり、すごく面白かったです。
とにかくテンポがいい。ちょっと抜けててお人よしな主人公があれよあれよと梅響に引きずり込まれていく様が笑えます(笑)。梅響の老人達も個性派揃いで、トランペット担当のラバウルさん(若い頃陸軍でラッパ担当だった)とか、練習中でも暇さえあれば推理小説の文庫本を読んでいるブンコさんとか、とにかく面白いです、見てる分には。実際一緒に合奏は大変そうですが。
でもこれらの老人たちの個性が山場で如何なく発揮されるところはすごい。上手いです。

主人公も流されるままではなく、途中で梅フィルとかけもちを試みたりもするんですが、それが却って事態をややこしくしちゃったり。可哀想だけどこういう人っているよね(笑)。
ここにロシアの大物作曲家兼指揮者のゴルゴンスキーという人の来日と、それに絡む謎のエージェントによるマトリョーシカ奪還作戦が加わり、さらに事態がややこしくなり、読み手としては最終的にどう結びつくのか見物です。

オーケストラに限らず、合奏の魅力は、大勢でひとつの曲を作り上げていくところにあると思いますが、最初はグダグダのガタガタだった梅響も、紆余曲折を経てみんなの気持ちがまとまったり新メンバーを獲得したりして、最終的には数年ぶりという演奏会が実現します。ちょっと色々出来すぎかなあとも思いますが、ほろりとしてしまいました。でも最後には主人公のプライベートに関する「やっぱ現実はそう甘くないよね」というようなオチもあり、ニヤリとさせられました。

とても綺麗にまとまっていましたが、なんだかこのメンバーで続編が読みたい、と思ってしまうような、暖かく面白い作品でした。

わたしもたまには楽器出して弾いてみようかなー(笑)。