小説の感想です。
『ギフト 西のはての年代記Ⅰ』(アーシュラ・K・ル=グウィン著、谷垣暁美訳、河出書房新社)
<西のはて>でも北東に位置する<高地>に住む人々。わずかな農作物と牧畜で生計を立てる彼らの中には、<ギフト>と呼ばれる特別なわざを持つ者がしばしば生まれる家系が存在した。強い<ギフト>を持つ血筋の者は、その力によって家族や小作人、農奴を守るブランター(土地の主)として己の小さな地所を統べていた。
視線と意思によって生物を殺傷したりものを破壊することができる<もどし>のギフトを持つカスプロ家の長男オレックは、普通なら10歳前後で自然に発現するはずのギフトがなかなか発現せず、悩んでいた。誰も口にはしないが、皆はオレックの母が<高地>の人間ではないことが関係しているのでは、と思っていた。
ギフトを持たない者はブランターになれない。それは即ちカスプロ家を頼る小作人や農奴たちの行く末をも左右する大事なことだった。
そんなある日、馬に乗った父カノックにマムシが襲い掛かるのを見たオレックは、咄嗟に大声をあげる。気づいた時にはマムシはもどされていた。ついにギフトが発現したのだと喜ぶ周囲だったが、オレックはギフトを使ったという実感がまるでなく、むしろ不安になる。自分の意志で制御できないギフトは荒ぶるギフトと呼ばれ、オレックの家系にはそれ故に己の目を封印した<盲目のカッダード>と呼ばれる伝説の人物がいたのだ。
己の力に対する不安を抱えたオレックだったが、ある日、家族とともに近隣の地所を治めるブランター、オッゲの家に招待される。攻撃的な性格のオッゲは、隙あらば近隣の地所を己のものにしようと機会を狙っている厄介な男だった。争いを避けるために、家族と共に招待を受けたオレックは・・・?
というようなお話。
日本では『ゲド戦記』以来の新訳、かな?ル=グウィンさんの新作ですよ!!
もともとル=グウィンの描くファンタジーは、魔法等の不思議な力が存在する世界でも、それを軽々しく使わないので、初心者の方にはとっつきにくいかもしれません。が、個人的にはそこがいい。
今回の作品は<ギフト>と呼ばれる特別な力を巡る物語です。力を伝える家系に生まれながら力が発現しない主人公オレック、そんなオレックを優しく見守る幼馴染のグライ、オレックには異国とも思える土地から嫁いできた母、その母を何よりも愛した父カノック、それぞれの人間模様の描写に重点が置かれています。
というか、主に父子の愛憎に重点が置かれているかも。読めば読むほど、決して表には表れない父子の暗い感情が伝わってきて、ラスト付近に明かされる事実には驚愕しながらもやっぱり、と思ってしまいます。
それにしてもお父さん・・・。オレックに優しく寄り添う幼馴染グライが居てくれてよかった。
この作品においてはたまたま<ギフト>でしたが、これを一種の才能と考えれば、現実社会でも十分よくある話です。継がねばならない状況というのは重いですねぇ・・・。
この作品は年代記ということで、三部作の予定だそうです。表紙裏に描かれた地図、今回の舞台では殆ど役に立っていなかったので(笑)、次回作からは役に立って欲しいものです。
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