
ブログ見てるよ。
よく続くね。
つまんないけど、いつも、読んでるよ。
それはそれは、ありがとうございます。
そんなような会話を、かれこれ十数年間、このお客さんとは、繰り返してきました。
親しくはないけれど、今では、すっかり気心知れた、お客さんと店主の間柄となりました。
雨足収まらぬ、物静かな夜を、客と店主が、気心しれた会話をします。
しがない飲み屋の店主ながらも僕なりに。
こんな新宿の片隅で。
そんなつもりもないままに。
とうとう、20年以上も、続けてしまいましたよ。
そんなつもりもなく今日まできたから、日常もまた、そんなつもりもなく過ぎて
くわけですよ。
あまりに変わりばえしない日常だから、香り付けのつもりで、ブログなんてのを続けているんですよ。
だから、僕のブログは、獄中手記、みたいなものですよ。
へえー、上手いこと言うね。
そうですか、ありがとうございます。
実は俺は、フランクザッパと中島みゆきが、本当は、一番好きなんだ。
ビートルズもストーンズも、どうでもいいんだ。
やっぱりそうでしたか。
どうも怪しいと、ずっと思ってましたよ。
そりゃどうも。
ついに本音を吐いたお客さんは、僕に釣られるように…自分のことを、話始めました。
俺は、しがないサラリーマン。
そんなつもりもないままに、こんな暮らしを、もう30年以上もやってきたよ。
しがないサラリーマンだからさ…
フランクザッパが一番好きとは、恥ずかしくて言えなかった。
かみさんが、中島みゆきが好きでさ。
貧乏臭い歌ばっかでさ、大嫌いだったのが、聞かされるうちに、好きな曲が増えてきてさ。
今じゃ、俺の方がかみさんより、詳しいかもしれないよ。
俺にザッパを教えてくれた親友は、死んでもう20年以上になるんだ。
ちょうど、マスター、あんたが、ここで、この店を始めたころだよ。
アル中でね、どこもかしこもボロボロでね。
最後は、あまりにも、あっけなかった。
あまりに、あっけなさすぎた親友に、何か無性に腹が立ってね、葬式でも、泣く気にさえならなかった。
それがさ、今頃になって、あいつのことを思い出す度に、泣けてしかたなくてさ。
そして、あん時泣けなかった自分にも、今さら泣ける自分にも、腹が立つんだ。
…
そろそろ、帰る時間だな。
そう、自分の人生に問いかけることがあります。
あとどれくらい、僕には、この世にいられる時間が、与えられているのだろう。
残り時間から想像する逆転の人生観を、身の回りの出来事が、それを垣間見せてくれることが、多くなったせいでしょうか。
そんな年齢なんだと、苦笑いすることがよくあります。
僕が、若い頃に、どんな生き方をしてきたのかなんて、誰に語ろうとも、それは、もはや、お伽でしかないのでしょう。
僕が想像する僕の姿と、他者から見える僕の姿は、全く違うようです。
それは恐らく、僕から見える他者の姿もまた、他者にすれば同じ思いなのでしょう。
では、自分の過去は、どう証明できるものなのでしょう。
有名人や成功者でないかぎり、物的な証拠でもでてこない限り、証明は不可能なのでしょうか。