日本航空の旅客機、エアバスA350
が羽田空港着陸直後に海上保安庁の航空機と衝突して炎上した事故は、炭素繊維(カーボンファイバー)で強化した複合材を使った新世代旅客機の大火災時の安全性を検証する初めての機会になろうとしている。
事故現場の写真を見ると、A350の機体は燃え尽きて灰になったことが分かる。運輸安全委員会や警視庁などは事故原因の究明を進めているが、航空業界が熱心に確かめようとしているのは炭素繊維強化複合材の耐久性だ。
エンブリーリドル航空大学の航空安全問題専門家、アンソニー・ブリックハウス氏は、今回の事故は火災だけでなく、衝突時の生存可能性という観点でも炭素繊維強化複合材にとって、初のケーススタディと言える、と述べた。
2000年代初めにボーイングが787ドリームライナー、エアバスがA350をそれぞれ投入した際に大いに期待したのは、軽量の炭素繊維強化複合材を使ったこれらの旅客機が燃費を大幅に節約し、機体を劣化させにくくして保守点検の負担が少なくなるという点だった。
ドリームライナーは就航直後、バッテリーの不具合による火災の問題で2013年初めに一時運航停止となったほか、13年7月にはエチオピア航空の機体で救命無線機のショートによる火災が発生し、改修を迫られた。
ただ、これらの火災では、機体の外殻が崩れ去ったわけではない。
A350は、胴体や尾翼と主翼の大部分など全体の53%に炭素繊維強化複合材が使われている。
複数の専門家は、
機体構造が維持されていた間に、乗員乗客全員が安全に脱出したという事実は、特別な条件付きで認証されたこの複合材に対する信頼を新たにすることになると話す。
とはいえ現時点ではまだ、A350の外殻がどのように火災から一定時間持ちこたえたのか、あるいはどんな技術的教訓が得られるか、全面的な結論を導き出すのは時期尚早だとくぎを刺した。
ブリックハウス氏は、今回の事故を、13年7月にアシアナ航空のボーイング777が着陸に失敗して火災となり乗客3人が死亡した事故と比較することで、
炭素繊維強化複合材とアルミニウム素材の火災における推移の違いに関する有効な知見が得られるのではないか、との見方を示した。
主に炭素繊維強化複合材でつくられた商用機として火災で損壊したのは、今回のA350が初めて。
だが、この複合材が使用された軍用機ではスペイン軍のエアバスA400Mが15年に墜落炎上したケースがある。スペイン軍は事故調査結果を公表しておらず、日本の当局がこの情報を入手できるかどうかも分からない。
〇耐火性で優位な炭素繊維強化複合材
航空業界の情報を扱うリーアム・ニューズ・アンド・アナリシスのビヨルン・フェルム氏は、炭素繊維強化複合材の機体はアルミ製機体に対して幾つかの優位性があると説明する。
例えば、アルミは摂氏約600度で溶解して熱を伝導するが、炭素繊維はその約6倍の高熱に耐え、溶解せず炎も出さずにくすぶり続けるという。
エアバスは19年に公表した消防士向けの指針で、A350は従来のアルミ製機体と「同等の安全性のレベル」があると証明するとともに、各種試験では火災の浸透への「抵抗力が増大した」ことが示されたと述べた。
だが、エアバスは強烈な熱に長時間さらされた場合、炭素繊維強化複合材の表面が残っている段階でさえ、機体の構造的な一体性が失われる恐れがあるとも指摘した。
TBSが消防当局の話として伝えたところでは、A350は6時間余りも燃え続けた後、ようやく完全に火を消し止めることができたという。
フェルム氏は「羽田空港の消防隊はなぜ(長らく)消火できなかったのか、検討する必要がある」と述べた。
ドイツの火災安全対応企業の幹部は、複合材の可燃性にはさまざまな要素が影響を及ぼす可能性があるとし、具体的に構造や繊維素材、使用される難燃剤の層などを挙げる。
この幹部は「一つ確実に把握できるのは、ケロシンの燃焼による熱がこれほど強烈であれば、アルミでも耐えられないということだ」と述べた。
【動画】衝突、炎上時の日航機内の緊迫した状況
日航機の乗客が撮影した事故発生直後の機内の様子からは、緊迫下状況が伝わってくる。