増える東南アジアの韓国人移住者。日本以上に熾烈な競争社会がその要因!?
9/24(月) 15:40配信 HARBOR BUSINESS Online
増える東南アジアの韓国人移住者。日本以上に熾烈な競争社会がその要因!?
バンコクの安宿街カオサンは2000年代初頭は東アジア人は日本人ばかりだったが、今は韓国人が目立つ
東南アジアを歩いていると、韓国語の文字、ハングルを見かけることが多くなった。例えばベトナム南部の都市ホーチミンなどは2012年ごろはあまり見かけなかったものの、今では街のあちこちにハングルの看板が見られるようになっている。
⇒【画像】バンコクでは「ムーガタ(豚鉄板焼き)」と呼ばれる「ヌアヤーンガウリー(韓国式焼肉)」
走っている車にも韓国車が増えた。タイやラオスでは「ヒュンダイ」の大型のバンを見かける。新しいモデルはそれなりにいいデザインで、悪くなさそうだ。特に嫌中感情が強いベトナムではバスやトラックの大型車は中国車より韓国メーカーが多い。乗用車でも韓国が多いのは、やはり値段が安いからとされる。
タイの場合、「ヒュンダイ」の「Grand Starex」というバンタイプの車種は、2497ccエンジン(175馬力)搭載で、約235万バーツ(約816万円)~になる。この車種にかなり近いスペックというと「トヨタ」が正規販売する「ヴェルファイア」だ。エンジンも2494ccでほぼ同じだが、箱のサイズはややヴェルファイアの方が小さい。これが約375万バーツ(約1300万円)~だ。500万円近くの差が出てしまうのだ。
家電市場に目を向けても近年は「LGエレクトロニクス」や「サムスン」がよく売れている。性能とデザインは別に劣ってない上に、やはり価格がものを言っている。東南アジアの人々は全般的に品質よりも、目先の価格に反応する。もちろん、東南アジアでは品質は今でも日本メーカーが上とされてはいるものの、韓国ブランドと比べるとやや割高に感じられてしまうのである。
韓国勢が東南アジアで強いのは、一時期ほどではないがいわゆるK-POPや韓国ドラマを徹底的に売り込んで、各国で放映されたこともある。日本でも韓国芸能人の日本進出やドラマ放映があって人気を博したが、東南アジアはそれ以上に浸透していた。
また、韓国メーカーは現地に進出していることも売上に影響しているのではないか。もちろん日本勢も韓国メーカー以前にタイなどには来ているものの、韓国人は日本企業が行かない辺鄙な場所にまで現れて展開する。フットワークの軽さも韓国メーカーの強みだ。
◆タイのバンコクでも増える韓国人
先日、タイ・バンコクにある日本人経営の賃貸仲介業者として最大手と言われる「ディアライフ」社に取材をしていたところ、日本人相手に商売をしていた同社が韓国人向けの部門を今から1年ほどの前に開設したと聞いた。韓国人の問い合わせが増えているからなのだとか。ディアライフの韓国人部門を担当する高村さんに話を聞いた。
「韓国人の顧客も日本人顧客同様に企業駐在員が多いです。しかし、日本人と大きく違うのは、韓国人は賃貸ではなく購入を前提に物件を探す傾向にあります」
日本人がバンコクで不動産購入を考える場合、多くは「投資」を目的にする。そのため、購入する顧客が負うリスク(管理や入居率の問題など)を憂慮したディアライフは賃貸を専門としてきた。しかし、ここに来て韓国人が増加し、購入物件を探しているために専門の部署を創設したほどだという。
そう、バンコクもまた韓国人が増えているのだ。タイ観光スポーツ省などの統計だと、日本人はコンスタントに100万人の入国者数があり、2010年を過ぎると130万~150万人超の入国者数を誇る。韓国人は2010年以前は100万人を超えるか超えないかの水準だったのが、今やほぼ日本人と同じくらいかそれ以上の人数がタイを訪れる。日本のほぼ半分の人口差から見たらなお多い。
そのため、バンコクにも韓国人社会が形成され、韓国人経営の不動産会社もあるにはある。しかし、日系が好まれるのには理由があるとディアライフの高村さんは見る。
「韓国人は家賃を払うなら買うという考え方です。高額な買いものになりますから、騙されたくないですよね。韓国人の自営業者はしたたかな人が多いので不安があり、企業駐在員は日系の不動産会社に相談に来るのです」
そんな高村さんも名前こそ日本人であるが、北朝鮮籍から韓国に帰化した人物だ。在日朝鮮人として東京の町田で生まれ育ち、ムエタイ選手になるために14年ほど前、20歳のころにタイに渡ってきた。そのときに北朝鮮籍だと選手になることが難しかったそうで、韓国に帰化することに決めたという。
◆厳しい韓国社会の脱落エリートが国外流出?
バンコクに住むある日本人自営業者は、韓国人が東南アジアに急増したのは、韓国人の労働力が流出しているからではないかと推測している。
「韓国は学歴社会の上、就職もヒュンダイやサムスンといった大手でしか明るい未来はない。がんばって勉強しても大企業に就職できなければ、一生這い上がれない低所得者層に落ちぶれる。だから、勉強はできたけど就職戦線に敗れたという人はどんどん国外に流れていくのではないでしょうか」
ただ、この見解を先に登場したディアライフの高村氏に聞いたところ、「そうですかね。韓国で仕事がないから外に出るというのはあまり聞かないですけど……」ということだったので実際のところは不明だし、知ることも難しいかもしれない。
というのも、バンコクに滞在する日本人が韓国人と交流することは少ないからだ。バンコクの日本人社会では日本人同士でビジネスを展開することが多いように、どの国も文化的背景や商習慣を共有する同国人と仕事をした方がやりやすいのである。それが韓国人社会の場合はもっと顕著なのだ。
韓国人は韓国人経営レストランやバーに行き、韓国人と話して過ごす。だから、韓国人はバンコクにたくさんいても、駐在員として滞在する大企業の社員にはめったにお目にかかれない。よく見かけるとすれば観光客か、自営業者ばかりだ。
◆タイに広まった「韓国式焼き肉」
ちなみに、自営業韓国人で多いのは飲食店経営者だ。タイ人も韓国料理、特に焼肉を好むので、比較的成功率も高い。少なくとも20年以上前には東北地方の鉄板焼きが「ヌアヤーンガウリー(韓国式焼肉)」という名称で、プルコギをタイ式にした料理として大衆に受け入れられていた。鉄板も本場のようにジンギスカン鍋のような形状で、今ではタイ全土で楽しめる料理になっている。
韓国人経営の韓国式焼肉店はキムチやナムルが無料でたくさん食べられるので、実際タイ在住日本人にも人気が高い。今でこそ日系の焼肉店が増えたバンコクだが、10年以上前はほとんど存在しなかったため、若い日本人は韓国焼肉に通って肉への欲求不満を解消していた。
いずれにしてもタイに韓国人が増加しているのは事実だ。筆者のバンコク郊外の自宅周辺も以前は台湾系が多かったが、今は韓国人系の家族ばかりになる。韓国は国土も狭く、受験戦争や就職戦争も熾烈だという。先の日本人経営者が言うように、優秀だったが就職戦争だけで敗れた韓国の若者たちが、市場が大きな国に行った方がいいと考えるのも自然なのかもしれない。
タイの日本人社会を見ても日本よりも自由な雰囲気はある。目上の人に対する礼儀作法が厳しいという韓国。国外に移住して成功すれば、そんな煩わしさからも解放もされる。韓国に限らず、どの国の人から見ても常夏の東南アジアは自由で、移住するには天国に思えるのかもしれない。
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>
たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)
ハーバー・ビジネス・オンライン